研究課題/領域番号 |
17K05294
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
松本 敏隆 静岡大学, 理学部, 教授 (20229561)
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研究分担者 |
小林 良和 中央大学, 理工学部, 教授 (80092691)
渡邉 紘 大分大学, 理工学部, 准教授 (30609912)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 準線形偏微分方程式 / 適切性 / 制約条件 |
研究実績の概要 |
(1) 空間拡散を伴ったサイズ構造モデルの適切性の研究 非線形境界条件付きの準線形偏微分方程式であるサイズ構造モデルに、空間拡散を加えたモデルを考察した。空間拡散を伴わない先行研究の結果から、有界変動関数の空間における弱解を考察する必要があることが判明したが、当初予定していたKato理論と類似の方針では連続微分可能な解のみが対象であり弱解を扱えない難点から停滞していた。研究分担者の小林と連携研究者は、Aubinらによるmutational equationの理論に偽距離に関する準消散性の条件を導入し、劣接線条件と増大条件の下で初期値問題の適切性を示し、準線形Kato理論を含む形に拡張整備した。この方法は距離空間における微分方程式に対する弱解を定めるものであるため、空間拡散を伴ったサイズ構造モデルには適当だと思われる。今後はこの手法を中心にサイズ構造モデルの適切性について研究を進めてゆく。
(2) 変数係数を持つ強退化放物型方程式に対する適切性の研究 研究分担者の渡邉は、非線形の移流項と拡散項を持つ準線形偏微分方程式の内、特に非線形拡散項が退化する集合が正の測度を持つ場合(強退化放物型)を考察した。この方程式の特徴は、放物型方程式の性質と双曲型方程式の性質の両方を持つ点であり、このことが近似解の変動量評価を得ることを困難にしている。渡邉は、Wu-Zhao(1983)によって導出された条件を適用することでこの困難を克服し、有界変動関数の空間内で 古典的な手法である粘性消滅法とKruzkovの二重変数法を用いて、エントロピー解の存在と一意性を得た。さらに、Kruzkovの二重変数法にChen-Karlsen(2005)の計算手法を用い、拡散項の変数係数の平方根に対する評価を行うことで初期値と係数に関する連続的依存性を証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
空間拡散を伴ったサイズ構造モデルの適切性の研究が当初の計画通りには進展していない。しかしながら、距離空間における微分方程式である mutational equationの理論に偽距離に関する準消散性の条件を導入することで理論の拡張整備を行い、抽象準線形発展方程式に対する弱解の扱いが可能となった点は予想外の進展であり、この結果を利用することでサイズ構造モデルの適切性の研究が進むことが期待できる。また、変数係数を持つ強退化放物型方程式に対する適切性の研究では、先行研究の手法を上手く用いることで有界変動関数の空間でのエントロピー解の適切性の結果が得れらた。この結果は、有界変動関数の空間でサイズ構造モデルを取り扱う上でも重要な結果である。以上のことから、かなり順調に研究が進展している部分も多くあるが、今年度の主目標であるサイズ構造モデルの適切性の研究に遅れが出ているため、研究計画全体としてはやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の目標であった空間拡散と伴ったサイズ構造モデルの適切性の研究をmutational equationの観点から進めてゆく。また、当初予定通り回帰的空間における制約条件付き準線形問題の適切性の研究にも着手する。今年度はmutational equationの理論も参考にしながら新たな安定性条件の設定を中心にリプシッツ発展作用素の生成理論の構築を検討する予定である。目的の達成のため、引き続き研究分担者、研究協力者と緊密に協力して研究を進めると共に、研究集会等へ参加して最新の研究に関する情報収集や成果発表を行う。さらに、他大学から関連する分野の専門家を招いてセミナー等で専門的知識の提供を受けることも計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
主に研究代表者が所属機関での業務の関係で、研究打合せや研究集会への参加を取りやめたために次年度使用金が生じた。研究代表者は、3年前に所属機関を移動した際に移管できなかった書籍などの研究に必要な備品を徐々に揃えてきたが、まだ十分ではないので主としてそれらの購入に使用したいと考えている。
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