研究課題/領域番号 |
17K05430
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
加藤 幾芳 北海道大学, 理学研究院, 名誉教授 (20109416)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 複素座標スケーリング法 / 共鳴状態 / 仮想状態 / 連続状態 / 光分解断面積 |
研究実績の概要 |
本研究の3つの研究目的(課題)のうち、第3の目的(課題)である「新たに開発された方法を用いて、具体的な問題(9Be核について観測される1/2+状態の光分解断面積)を分析する」ことを行って、その結果を論文(Phys. Rev. C 99, 034312 (2019))として公表した。 その内容は、簡単化された8Be+n2体クラスター模型と複素座標スケーリング法を用いて、光分解断面積の詳細な分析を行い、9Be核の1/2+状態が共鳴状態か仮想状態かを判別することが出来るかどうか調べたものである。その結果は、判別が難しいという結論であった。しかし、共鳴状態である場合、そのエネルギーは閾値に極めて近くなければならず、共鳴巾を考えると孤立した状態しての観測は困難であると考えられる。その意味では、仮想状態とあまり違った状態であるとは言えない。また、従来のR行列を用いた分析では、共鳴状態の巾や遷移行列要素について、そのエネルギ-依存性を仮定しなければならず、エネルギー依存性が自然に入る複素座標スケーリング法の優位性が明らかになった。 複素座標スケーリング法では、光分解断面積が各状態の遷移行列要素と状態密度の積の和を取ったもので記述され、共鳴状態あるいは仮想状態からの寄与が大きいとは言え、断面積には他の連続状態からの寄与もあり、それら全体として観測される断面積を再現する。我々の計算は、簡単化された2体模型を用いて行われたので、ポテンシャルの取り方によって、共鳴状態あるいは仮想状態の場合に分けて議論でき、どちらの場合も実験データに対応する閾値上での鋭いピークを再現することが出来た。 これらの研究成果は、公表論文だけはなく、学会、国際会議においても報告・発表されてきた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の3つの研究課題のうち、初年度において、第1の研究課題を実行し、その成果を用いて、2年度目のこの1年の間に第3の研究課題に取り組み、成果を得たことは評価できる。しかし、仮想状態と共鳴状態の区別が光分解反応断面積からだけでは出来ないことは当初の予想と異なるものであった。また、第2の研究課題が次年度になってしまったことは、我々のパワー不足の故であった。 第3の目的(課題)との関連で、現在もう一つの個別課題を実行している。それは、9Beと9B のミラー状態1/2+ についての分析である。9Be の光分解反応断面積の研究を通じて、我々の結論は、9Be の第1励起 1/2+ 状態は共鳴状態ではなく仮想状態である。この結果に基づいて、9Bの第1励起 1/2+ 状態を計算すると、クーロン・ポテンシャルのために明白な共鳴状態として得る。一方、9Bの実験データは、共鳴巾が大きいためか、まだ確立していない。1/2+ 状態以外の低励起状態については、9Be, 9B ともにミラー対称性が良く、実験データとも一致が良い。第1励起 1/2+ 状態だけが、ミラー対称性が良くない。実験データがはっきりしないこともあり、現在進めている詳細な理論的研究が興味深いものになっている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後、本研究の第2の目標である「チャネル結合系の分析を行い」、昨年挙げた課題を達成する。すなわち、1)仮想状態と共鳴状態をチャネル結合で理解する、2)連続準位密度を用いたチャンネル結合系の位相差の計算を確立する、3)部分巾も物理的意味を解明する、である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
カザフスタンでの国際会議(2018年4月9-14日)、及びワークショップ(2018年11月1-8日)の滞在費を相手側が負担することになり、予定の旅費予算が少なくなったことが次年度使用として残った理由である。次年度、最終年度として研究のパワーアップを図るため、数値計算用の計算機の購入と、イタリアで2019年に開催されることが決まった(2018年に決定)国際会議参加の旅費として使用する予定である。
|