ペプチドと脂質混合試料、酸化防止剤であるIrganox1010と他の有機物との混合試料及びCBPとIr(ppy)3の混合試料について、相対感度因子に基づく補正を実施することで、マトリックス効果が補正できることを示した。相対感度因子は、2成分系について調整した標準試料の測定結果から求めることができる。さらに、2成分系の相対感度因子に基づいて、3成分系においても2成分ずつ補正することによって、ある程度適用可能であることが示された。 相対感度因子の算出では複数の濃度の標準試料を調整することが望ましいが、Shardらによって2015年 (doi: 10.1021/acs.jpcb.5b05625.)に示された50%ずつ2成分を混合した試料における各物質の二次イオン強度比を用いても、今回検討したどの試料においても、複数試料から求めた相対感度因子による補正と同等の結果となることが示された。 試料の混合状態評価に、TOF-SIMSスペクトルの情報エントロピーが有効であることを示した。スペクトルの情報エントロピーは、各二次イオン強度を総二次イオンで割ることによって二次イオンのスペクトル上での検出確率として、情報エントロピーを算出した。その結果、マトリックス効果を受けた状態でも、混合状態の変化の概要を示すことが示唆された。ただし、正確な評価には、マトリックス効果補正が必要であり、補正後に改めて情報エントロピーを求めることが望ましい。 さらに、ペプチドと脂質の混合系に関しては、脂質によって著しくペプチド由来の二次イオン強度が抑制された状態でもペプチドのスペクトルであると機械学習によって認識できることが示され、そのような系でもペプチド由来の二次イオンは解析に耐えうる強度で検出されていることが確認できた。
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