研究課題/領域番号 |
17K07094
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊藤 美佳子 名古屋大学, 医学系研究科, 特任講師 (60444402)
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研究分担者 |
大河原 美静 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (80589606)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | GFPT1 / 先天性筋無力症候群 |
研究実績の概要 |
先天性筋無力症候群(congenital myasthenic syndromes, CMS)は神経筋接合部(neuro muscular junction, NMJ)に発現するタンパクをコードする遺伝子の先天的分子欠損症により神経筋伝達障害が起こる疾患群である。CMS の原因分子の一つに、タンパクや脂質の糖化酵素であるGFPT1(Glutamine:Fructose-6-Phosphate Transaminase 1)の変異があり、肢帯型の筋力低下が特徴である。GFPT1は広範囲に発現するタンパクであり、なぜNMJに限定してCMS症状を起こすのかは不明である。興味深いことに骨格筋ではスプライシングされるexon9の54塩基が含まれるGFPT1-L isoformが形成され、酵素活性が減少する。しかし、なぜ骨格筋でこのGFPT1-L isoformが高発現であるか不明である。 本研究ではGFPT1-L の骨格筋での役割を明らかにするため、exon9をスキップさせたモデルマウスGfpt1-L-/-を作製し、表現型解析を行った。運動試験の結果Gfpt1-L-/-はコントロールに対して、体重、筋力、運動能に変化がなかった。骨格筋のグリコシル化タンパク量にも変化がなかった。コンピューター断層撮影(CT)スキャン画像解析では、Gfpt1-L-/-の皮下および内臓脂肪組織の減少を示したが、有意な筋萎縮は観察されなかった。一方、Gfpt1-L-/-骨格筋でのミトコンドリア代謝のマーカータンパク量は減少を示し、脂質の利用の低下によるミトコンドリア代謝の減少が示唆された。このように、Gfpt1-L-/-マウスがコントロールと違いがないのは、GFPT2が代償機構として働いているためと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当機関の実験動物施設で作製したGfpt1のエクソン9を削除したホモのGfpt1-L-/-マウスは、2匹のヘテロ接合型マウス(Gfpt1-L+/-)の交配によって作製できた。Gfpt1-L-/-マウスにおいて骨格筋および心筋におけるエクソン9のスキッピングは、RT-PCRにより確認された。 発達の過程においても、コントロールマウスとGfpt1-L-/-マウスの間に体重の有意差は観察されなかった。運動能力と持久力を評価するために、18か月齢マウスのランニングホイールテストを実施した。しかし、Gfpt1-L-/-とコントロールマウスの間に有意差はなかった。次に、ロタロッドテストを実施し、運動能においても、Gfpt1-L-/-マウスとコントロールマウスの間に有意差を示さなかった。 骨格筋でエクソン9をスキップすると、GFPT1変異を持つCMS患者と同じように、筋肉内のタンパク質のグリコシル化レベルが変化するかどうかを調査したが、Gfpt1-L-/-とコントロールマウスの間に違いは見つからなかった。手足のMuscle atrophyがGFPT1-CMS患者で報告されているため、Gfpt1-L-/-マウスのコンピューター断層撮影(CT)スキャンを実行した。 CT画像は、Gfpt1-L-/-の有意な筋萎縮は観察されなかった。 上記のように、予想に反してGfpt1-L-/-の表現型が現れないのは、マウスではGFPT2が代償機構として働いている可能性がある。そのため、GFPT2-/-,Gfpt1-L-/-マウスを作成し、GFPT2-/-との比較を行うことにした。そのマウスを現在作製中である。
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今後の研究の推進方策 |
Gfpt2-/-,Gfpt1-L-/-マウスを作製し、Gfpt2-/-との表現型の比較を行う。 また、Gfpt1-L-/-は表現型はコントロールと大きな違いはなかったが、患者の治療戦略としてアンチセンスオリゴの投与でのエキソンスキッピング抑制の可能性を検討する。そのため、まずin vitroの実験で、mini geneをtransgectionした細胞において、エキソン9 のスキッピングが起きるアンチセンスオリゴを設計し、培地中に添加することで、スキッピングが起きていることを確認する。次にin vivo実験としてGfpt1-L-/-マウスにアンチセンスオリゴを投与することにより、骨格筋においてエキソン9のスキッピングの抑制効果を検証する。 in vitro研究においては、この患者由来のiPS細胞を使用し、GFPT1-CMSの分子メカニズムの解明を試みる。この患者GFPT1変異の表現型を解析するため、NMJで特異的に発現しているacetylcholine receptor (AChR), MuSK, LRP4, collagen Q, agrin, dystroglycanなどの細胞外と細胞膜結合タンパクのglycosylationレベルを解析する予定である。また、筋分化させたiMbsにおいてAChR のクラスター形成能やMuSKのリン酸化レベルを検出する。さらに、治療戦略として、この変異の表現型を回復させる薬剤の選別や、アンチセンスオリゴを用いた治療法についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
患者遺伝子変異を持つノックインマウスを作製し、その病態解析を行う予定だったか、作製したマウスが患者と似た表現型を示さなかった。そのため、他の遺伝子の発現を抑えたダブルノックアウトもしくはダブルノックインマウスの作製を行い研究を進めていたが、このマウスは惰弱だったため仔の育児が上手くできず、ノックインマウスを十分な数増やすことに時間がかかった。現在、里親に育児をさせるなどして徐々にマウスの数が増え、成長ごとの運動試験を実施している。今後、病理解析および治療法の開発に取り組む予定である。 次年度使用物品は、動物実験用品、実験動物飼育費、試薬類、プラスティックディスポ製品である。
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