先天性筋無力症候群(CMS)は神経筋接合部に発現する先天的分子欠損症により神経筋伝達障害が起こる疾患群である。CMS の原因分子の一つに、タンパクや脂質の糖化酵素であるGFPT1(Glutamine:Fructose-6-Phosphate Transaminase 1)の変異があり、肢帯型の筋力低下が特徴である。骨格筋ではsplicingされるexon9の54塩基が含まれるGFPT1-L isoformが形成され、酵素活性が減少する。本研究ではGFPT1-L の骨格筋での役割を明らかにするため、exon9をskipさせたモデルマウスGfpt1-L-/-を作製し、表現型解析を行った。運動試験の結果Gfpt1-L-/-は12ヶ月齢になると体重が増加し、筋力・運動能が減弱した。病理像では 、アセチルコリンレセプター (AChR)のクラスタリングが減少し断片化が見られた。CTスキャン画像解析では、Gfpt1-L-/-の皮下および内臓脂肪組織の減少を示したが、有意な筋萎縮は観察されなかった。一方、骨格筋でのミトコンドリア代謝のマーカータンパク量は減少を示し、脂質の利用の低下によるミトコンドリア代謝の減少が示唆された。 次に、CMS患者においてGFPT1 c.722^723insG変異を同定した。これはalternatively spliced exon 9内の変異であり、reading frameを変えてpremature stop codonをexon10内に導く。患者変異と同様の716^717insGモデルマウスを作製したところ、運動機能の低下、O-GlucNAcを介したグリコシル化タンパク質の量の減少、AChRクラスターの断片化、中心核を持つ筋細胞の増加、筋萎縮、筋線維間腔の増加など、患者と同様の表現型を示した。このモデルマウスを用いて、治療法開発への応用が期待できる。
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