研究課題/領域番号 |
17K07243
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
石野 知子 (金児知子) 東海大学, 健康科学部, 教授 (20221757)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | domesticated gene / レトロトランスポゾン由来 / 哺乳類特異的 / Sirh famiry / 脳機能 / 行動異常 / 睡眠異常 |
研究実績の概要 |
われわれはLTR レトロトランスポゾン由来の哺乳類特異的なインプリント遺伝子(片親性性発現遺伝子)PEG10、PEG11 を同定し、KO マウスの解析よりPeg10、Peg11が哺乳類の胎生の特徴である胎盤の機能に関わることを証明した。さらに、Peg10、Peg11 に相同性のある遺伝子の探索からさらに9つの哺乳類特異的な遺伝子を同定し、そのうちSirh7/Ldoc1 も胎盤の内分泌調節に関わること解明した。これらの11個の遺伝子をSirh famiry genesと呼んでいるが、3つは胎盤という観点から哺乳類の特徴に寄与する遺伝子であった。では残りの9個の遺伝子はどのような点で哺乳類に寄与しているのだろうか。 ヒトゲノムにはLTR レトロトランスポゾンに由来するdomesticated gene(家畜化遺伝子;ゲノムに入ってからのちに遺伝子として使われるようになったもの)が約30 個存在する。われわれが同定したsushi-ichi レトロトランスポゾンに由来する11 個のSIRH familyと、gypsey 12_DR レトロトランスポゾンに由来する19 個のPNMA familyで、PNMA 遺伝子の多くは脳で発現しており、脳での機能が予想されている。 本研究対象のSIRH11、SIRH3/LDOC1 (以下SIRH3)、SIRH8/RGAG4(以下SIRH8) も脳での発現を特徴とし、Sirh11 は脳内のノルアドレナリン量制御に関わることを報告した。ノルアドレナリンニューロンでの機能が予想され、ヒト精神疾患の原因である可能性が高い。Sirh3 KO、Sirh8 KO も行動異常が見られ、脳機能という点で哺乳類に寄与している可能性が高い。平成29年度は特にSirh3 KO、Sirh8 KOについて解析を進め、睡眠を中心とした脳機能への関与を明らかにしつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は繁殖できている動物の都合で研究計画のSIRH3-GFP、SIRH8KO、Sirh3-8 ダブルKO マウスの表現型解析を重点的におこなった。その結果 ①Sirh3 KO マウスでは夜間運動量の減少がみられ、最も相同性の高いSirh8 の発現上昇が各臓器で見られる。夜間運動量の減少と反比例して睡眠時間がトータルでは増大するが、短い睡眠を繰り返しており質としてはよくない。(Irie et al. 投稿準備中)。 ② Sirh3 ノックインマウスを用いて脳からSirh3-GFP 融合タンパク質の抽出し、抗GFP抗体で同定することで、Sirh3がタンパク質として機能していることを示せた。 ③Sirh3 の発現部位を Sirh3 ノックインマウスを用いてSirh3-GFP 融合タンパク質の発現を指標に同定した。Adultの小脳を除く脳で広範に発現していることが明らかになった。これによりmRNAの検出できる他の臓器(腎臓・精巣・筋肉)ではほとんどタンパク質になっていないことも明らかになった。 以上のようにSirh3の解析に関して大きな進捗がみられた。
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今後の研究の推進方策 |
① Sirh3 ノックインマウスを用いて、胎児期の発現部位の解析を進める。 ② Sirh8KO マウスはプレパルスインヒビションに異常があることが解っており、脳内モノアミン濃度やある種のアミノ酸の濃度異常が予想される。Sirh3-8 ダブルノックアウトも加えて、マイクロダイアリシスによりモノアミンを測定を進行中で、異常の原因を特定を目指す。 ③ Sirh11/Zcchc16 タンパク質の機能ドメインの同定:Sirh11 タンパク質はレトロトランスポゾンのGag タンパク質と高い相同性を有し、C 末にはRNA 結合ドメインであるCCHC 配列を持つ。このタンパク質の機能がこのRNA(またはDNA)結合能によって発揮されている可能性が高いため、この配列に点突然変異をいれたマウスをCRISPR/CAS9 法で作製し、KO マウス同様の表現型がみられることを実証するまた、N 末やC 末をきり縮めたコンストラクトを用いて、タンパク質としての最小機能単位を明らかにし、機能ドメインと相互作用するタンパク質を同定する。 ④ SIRH11/ZCCHC16 タンパク質の発現部位の同定:マウスでの解析から、Sirh11 遺伝子は脳において中脳、間脳、脳幹、海馬で比較的高い発現がみられるが、実際にタンパク質レベルでの発現がまだ確認されていない。このため、Sirh11 のN 末またはC 末にGFP をつないだSirh11-GFP ノックインマウスをCRISPR/CAS9 法をもちいて作製し、胎児期のノルアドレナリンニューロンの形成時期から成体における発現までを体系的に解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
①3月の人件費が確定しなかったため、すこし余裕を見て消耗品等の購入をひかえたため、次年度使用額が生じた。 ②次年度使用計画 消耗品費:158,773円、国内旅費:50,000円、人件費・謝金:500,000円、 その他: 500,000円、計 1,208,773円
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