研究課題/領域番号 |
17K07304
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
瀬尾 悌介 金沢大学, 物質化学系, 助教 (10339616)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 基質阻害 / フラビン / 電子伝達反応 / 酵素基質複合体 |
研究実績の概要 |
Ferredoxin(Fd)とNAD(P)+/H間の酸化還元反応を触媒するFerredoxin-NAD(P)+酸化還元酵素(FNR)は,可逆である酸化還元反応を生理的方向へ反応が進行するように反応方向を制御すると考えられる.この制御が酵素基質複合体形成に伴う構造ダイナミクスの変化に起因すると考えられるため,類似した構造を持つが異なる方向性を示すFNRを用いた比較研究により,方向制御を実現する構造的要因と制御機構の解明を目指した. 紅色非硫黄細菌FNRとNADP+/H間の酸化還元反応では,NADP+還元方向とNADPH酸化方向のヒドリド転移反応速度がほぼ等しく,可逆的に進行することが明らかになった.この結果は, NADP+還元方向の速度がNADPH酸化方向に比べて著しく低下している緑色硫黄細菌FNRとは対照的である.還元型の紅色非硫黄細菌FNRの紫外可視域の吸収スペクトルにおいて,緑色硫黄細菌FNRでは観測されなかったFADのS0→S1遷移に伴う吸収帯が確認されたことから,還元状態におけるFADのイソアロキサジン環周辺の環境が両FNRでは異なると考えられ,還元時のFADと周辺アミノ酸残基との相互作用が方向制御の鍵を握ると推察された.そこで紅色非硫黄細菌FNRの結晶構造中で見いだされた,FADのイソアロキサジン環re面にスタックしているTyr328残基を置換した変異体を発現・精製し,NADP+/Hとの反応時の挙動を測定した.変異によりNADP+とNADPHに対する親和性は増加した一方,ターンオーバー速度は減少した.前定常状態での測定では,いずれの変異体においてもNADP+/Hの解離と再結合速度が低下していたことから,Tyrがニコチンアミド環のスタックを阻害することで,NADP+/Hの解離を促進してターンオーバー速度を上昇させていると推察される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度に引き続き,速度論的研究と酵素基質複合体構造に関する研究を進めた. 速度論的研究では,野生型並びにC末端部を削除した緑色硫黄細菌FNRの変異体とNAD(P)+/H間の酸化還元反応を同細菌Fdの存在下で測定し,Fdの存在が方向性制御に及ぼす影響の検証を進めている.嫌気下での化学的処理により4Fe-4S型に再構成したFd存在下でのNADPH酸化速度の測定を実施した結果では,C末端部を削除した変異体と野生型でFd非存在下と同様な結果が得られており,測定データの解析を進めている.Fd存在下での還元型FNRによるNADP+還元の測定を実施し,2つの基質に対する濃度依存性の検証を進めている.また還元型Fdによる酸化型FNRの還元速度と,還元型FdによるFNRを介したNADP+還元速度の測定に向けて,適切な基質濃度とFdの還元状態を保持できる測定条件の検討を進めている. 酵素基質複合体構造に関する研究では,FNRの酵素基質複合体の結晶構造解析を目指し,枯草菌由来の2つのflavodoxinと枯草菌FNRとの複合体結晶化条件の検討を連携研究者の協力の元進行している.紅色非硫黄細菌FNRの速度論的研究の結果から,還元型FNRにおけるイソアロキサジン環のコンホメーションが反応方向制御に影響を及ぼすことが示唆されたため,還元型の緑色硫黄細菌FNRと紅色非硫黄細菌FNRの結晶化条件の検討を研究協力者の元で進めている.NMR分光法によるFNR-基質複合体の構造情報の取得のために,インテイン融合蛋白質を用いた蛋白質編集法による部分同位体ラベル試料の作成を進めた.N末端側のFNRの主要な部分を含む融合蛋白質は,大腸菌内でFADが結合した状態で発現・精製できている.C末端側の断片は,インテイン融合蛋白質として発現しているものの,発現状態もしくは精製法に問題があり断片の回収法を検討している.
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今後の研究の推進方策 |
反応方向の制御を実現する要因と制御機構の解明を,FNRのC末端部に重点的に変異導入してFdの共存下での挙動を速度論的研究を実施し,変異の影響を評価することで進める.具体的には,進行中である野生型及びC末端部のアミノ酸残基を削除した緑色硫黄細菌FNRを用いたFd共存下でのNADP+/H酸化還元反応の測定に加えて,Fd存在下での野生型及びC末端部のアミノ酸残基に変異を導入した枯草菌FNRのNADP+/H酸化還元反応の測定を行う.現時点で得られている立体構造情報に基づいて制御に関わるアミノ酸残基を特定することが困難なため,緑色硫黄細菌FNRと枯草菌FNR間で各ドメインを相互に入れ替えた変異体を作成し,ドメイン単位での機能に関する考察を進める. 前年度に引き続き,酵素基質複合体の結晶化を進める.枯草菌FNRは,溶解度がFNRに近い枯草菌Fldを用いて複合体の結晶化条件の検討を引き続き進める.結晶構造解析による酵素基質複合体に関する構造情報が得られた場合,制御機構の詳細を明らかにするために,どのような因子が複合体構造や方向制御に関与していると考えられるか,該当するアミノ酸残基へ変異導入して検証を行う.緑色硫黄細菌と紅色非硫黄細菌FNRを対象として,還元型FNRの結晶化を昨年度に引き続き嫌気下での結晶化を実施する.NMR分光法による構造決定に向けて,C末端側ペプチドの発現・精製方法をアフィニティータグの導入を検討し進めいく.
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