研究課題/領域番号 |
17K08022
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
濱中 大介 鹿児島大学, 農水産獣医学域農学系, 准教授 (60399095)
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研究分担者 |
渡部 由香 鹿児島大学, 農水産獣医学域農学系, 准教授 (70244267)
池永 誠 鹿児島大学, 農水産獣医学域農学系, 准教授 (70511822)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | バイオフィルム / 低温保存 / 低酸素 / 短時間加熱 |
研究実績の概要 |
農産物保存中の微生物叢の変化に関して、本年度は保存中レタスにおける解析を行った。保存条件は5、10、20、30℃とし、アクリルデシケータを用いた密閉環境とした。先ず、一般的な微生物検査培地である標準寒天培地、デソキシコレート寒天培地、CVT寒天培地、MRS寒天培地を用いて検出される微生物に関して、16S-rDNA塩基配列を用いた相同性解析を実施したところ、保存前は土壌由来の芽胞形成菌やPseudomonasをはじめとした一般的な細菌が多く見られたが、保存期間の延長に伴って乳酸菌や大腸菌群が多く認められ、低酸素・高二酸化炭素条件が影響していることが示唆された。また、レタスの品質については、保存温度が高くなると激しい褐変が認められたが、褐変の有無における微生物叢の変化については、明確な差は認められなかった。現在、難培養細菌について、次世代シークエンサを用いて解析を進めており、その結果を次年度において報告したい。農産物の保存中の微生物動態に関して、Pseudomonas属菌のバイオフィルム形成の特徴把握についても検討を行った。とくにコールドチェーンの切れ間や、食品製造環境における加熱不良といった、周辺温度環境の急激な変化を想定し、10秒程度の短時間加熱前処理がバイオフィルム形成能に及ぼす影響を評価した。70℃以上の加熱を前処理として行うと、60℃以下の場合よりもバイオフィルム形成は促進された。80℃まで加熱温度を上昇させると、バイオフィルム形成は抑制されたが、検出される生菌数には有意差が認められなかったことから、バイオフィルム形成に関連する高分子や制御機能に影響を及ぼしていることが考えられた。このことは、耐熱性が高くないPseudomonasのような微生物に対する殺菌温度でも、不十分な加熱はバイオフィルム形成を促進し、残留の可能性が高まることを示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の目標であった様々な保存条件における微生物叢に及ぼす影響については、一般的な培地で検出され、16S-rDNAの解析を基本とした菌叢評価については一定の成果を得ることができたが、殺菌処理条件後の農産物における評価については着手したばかりであり、次年度までに早急にデータを蓄積する予定である。また、レタス以外の農産物、例えば根菜類や果実類については、プライマー設計にやや時間を要したことが、本年度の進捗としてやや遅れていると判断した。一方、保存中農産物の表面にも形成されるバイオフィルムの評価については、加熱殺菌を想定した前処理条件における形成状態の評価は、非常に有意義な成果を得ることができた。加熱のみならず、短時間低温処理や、他の殺菌処理の影響についても引き続き検討している。
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今後の研究の推進方策 |
難培養種を含むすべての微生物叢の把握については、現在、レタスおよびイチゴ果実、ならびにサツマイモについて検討を進めている。29年度はDNAの抽出方法ならびに増幅条件の設定に試行錯誤したため、十分なデータを得ることができなかったが、共同研究者内および学内研究者の協力によって、今後は円滑なデータ収集を図る。上記3品目におけるデータ収集を終えた後、他の農産物ならびに加熱や紫外線といった殺菌処理ならびに低酸素高二酸化炭素といった、農産物の保存や流通中にて遭遇する諸条件における検討についても、計画通りに実施する。また、29年度の成果であったバイオフィルム形成特性についても、Pseudomonasのみならず、SalmonellaやE. coliといった病原微生物についても同様に特徴を把握するとともに、関連遺伝子群の発現解析についても進めるよていである。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品の使用計画としては当初の予定通りであったが、次世代シークエンサ解析に関して、外部への解析発注までには至らなかったため、関係する費用が発生しなかったことが次年度使用額が生じた理由である。繰り越した予算については、29年度に使用予定であった外部への解析発注に充てる予定である。
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