ペスチウイルスは自然免疫を抑制するEND陽性型と誘導するEND陰性型の相反するウイルスが混在する集団であり、病態多様性や自然界のウイルス存続を解明するには、それらウイルスの相互反応を明らかにする必要がある。そこで、ペスチウイルスのプロトタイプである牛ウイルス性下痢ウイルス(BVDV)を用いて解析した。 遺伝子型が異なるBVDV1とBVDV2についてEND陽性型とEND陰性型を単離し、生物学的又は遺伝的に純化した。ウイルス遺伝子を解析し、END陽性型と陰性型の間で共通してNpro、NS5A及びNS5B領域にアミノ酸置換があり、BVDV1ではNproの8番目のアミノ酸置換が自然免疫制御を決定していることが判明した。 生物学的に純化したBVDV1とBVDV2のEND陽性型と陰性型を組み合わせて牛由来培養細胞に重感染させると、一方のウイルスが優位に感染していても他方のウイルスが重感染することでEND現象や異種ウイルス干渉現象が抑制又は阻止され、END陰性型によるIFN誘導性蛋白発現は低下するが、両ウイルスともに細胞内で複製していること、END陽性ウイルスの複製が優位になっていくことが判明した。インターフェロン(IFN)の影響を除くため、IFN受容体ノックアウト牛細胞を作製し、END陰性型ウイルスが感染してもIFN誘導性蛋白のMx1やISG15が発現しないが、異種ウイルス干渉現象が不完全であること、共感染したEND陽性型ウイルスの複製量が低下することが観察された。しかし、IFN受容体ノックアウト牛細胞のIFN誘導性蛋白発現が徐々に回復したため、高度な細胞純化が必要となった。 以上から、END陽性型とEND陰性型の両ウイルスは相互に抑制的であり、IFNが関与しない抑制(内因性干渉)も存在する可能性がある一方で、両ウイルスとも細胞内で複製を維持していることが推察された。
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