ショ糖摂取による食後高血糖は、肥満や糖尿病などの生活習慣病の原因となる。我々は、カイコのショ糖摂取後の血糖値の上昇を抑制する活性の有無を指標に、食後高血糖を抑制する腸内細菌株の同定に成功している。しかし、この腸内細菌が宿主の食後高血糖を抑制する分子機構は不明である。本研究の目的は、腸管内栄養状況を変える腸内細菌の生存戦略の解明とその腸内細菌の糖尿病発症への影響を明らかにすることである。 平成29年度において我々は、腸内細菌YM0831株がカイコの腸管のグルコース輸送を阻害することを見出した。さらに、腸内細菌YM0831株がヒト腸管培養細胞であるCaco-2細胞におけるグルコース取り込み活性を阻害することも明らかにした。また、Caco-2細胞のグルコース取り込みに対する阻害活性が低下した腸内細菌YM0831株由来のトランスポゾン挿入変異株を得ることに成功した。 平成30年度において我々は、Caco-2細胞のグルコース取り込みに対する阻害活性が低下した腸内細菌YM0831株由来の変異株において、腸内細菌のマンノースの代謝に関わる遺伝子を複数有するオペロンのプロモーター領域にトランスポゾンが挿入されていることを見出した。またRT-PCR法により、腸内細菌YM0831株由来の変異株において、そのオペロンに含まれる遺伝子群の発現が低下していることを見出した。 平成31年度において我々は、腸内細菌YM0831株のゲノム中の細胞障害性に関わる遺伝子クラスターに変異があり、Caco-2細胞に対して細胞障害性が低いことを見出した。さらに、ヒトの臨床試験を実施し、腸内細菌YM0831株がヒトのショ糖摂取後の血糖値の上昇を抑制することを明らかにした。 以上の結果から、腸内細菌YM0831株がヒトの腸管細胞のグルコースの取り込みを抑制することで食後高血糖を抑制することが示唆された。
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