本研究では、標的SLC輸送体分子が新規なCa2+輸送体であることを実験的に証明するとともに、標的SLC分子の各種遺伝子改変マウス(トランスジェニックマウス、ノックアウトマウス)を作製して、その生理学的役割および心血管病発症における病態学的意義を解明することを目的としている。これまでに、哺乳動物細胞発現系を用いて、標的SLC分子がCa2+輸送活性を有していることを実験的に証明した。また、標的SLC分子の心筋特異的高発現マウスを作製したところ、心肥大形成、心機能低下および早期の突然死を引き起こすことを観察した。この病態機序を解明するために、単離・培養心筋細胞を調製して、心筋細胞内Ca2+トランジェントを解析したところ、異常なCa2+トランジェントが認められた。一方、標的SLC分子の遺伝子欠損マウスを作製して、心血管機能(血圧、心拍数、心エコー)を解析したところ、見かけ上正常な機能を示したが、Ca2+、Mg2+負荷に対する感受性・反応性の異常が観察された。この分子機序を解析するために、その単離・培養心筋細胞および培養血管平滑筋細を用いて、種々条件下の細胞内Ca2+シグナルを解析中である。さらに、研究計画に基づいて、標的SLC分子の安定発現細胞を用いた新規阻害薬スクリーニング系を確立した。現在、LOPAC化合物ライブラリー等を用いて、新規低分子阻害薬の探索を行っている。今後、標的SLC分子の生理学的・病態学的役割を詳細に解析するとともに、新規低分子阻害薬を見出して、心不全治療応用へ繋げて行きたいと考えている。
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