研究課題
グアニン四重鎖(G4)特異的抗体(BG4抗体)によって細胞内G4を可視化して、G4の蓄積に協働する一連の分子群に対するHERC2分子の役割解析を行った。BLM-RPA結合がHERC2に依存的で、HERC2がBLM-RPA結合の制御を介して G4の解除を行っていることを明らかにした。BLM-RPA結合だけではなく、WRN-RPA結合もHERC2に依存的であって、HERC2はWRN-RPA結合の制御も同時に駆使して、G4の解除制御を行なっていた。BLMとWRNの機能不全時高頻度に見られる姉妹染色分体交換がHERC2の欠失やE3活性の失活時も同様に高頻度的に見られた。HERC2は姉妹染色分体交換の誘導に抑止機能を果たしていた。HERC2はRPAのヘリカーゼへのアセンブリを調整することによってG4の解除制御や姉妹染色分体交換の抑止に機能していることを明らかにした。人工合成DNAを用いたvitro解析では、HERC2がRPA分子を一本鎖DNAにドッキングさせていたことが分かった。免疫染色の解析では複製ストレス応答時一本鎖DNA上に集積したRPA分子とHERC2分子の共局在関係が解消され、HERC2分子が一本鎖DNAにRPA分子を装着させる役割がより明白になった。HERC2はRPA分子の新規ユビキチンリガーゼで、RPA分子をユビキチン化していた。G4の解除制御に機能している可能性も示されたが、このユビキチン修飾の分子学的な意義を解明することができなかった。今後の課題として検討する必要があった。Clonogenic survival解析ではHERC2の欠失やE3活性の失活細胞がDNA架橋剤や複製阻害薬に対して高い感受性を示さなかったが、Pyridostatin およびTelomestatinなどのG4 安定化剤に対して高い薬剤感受性を示された。G4安定化剤が新規分子標的薬になりうる可能性を示した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は計画に沿って研究を遂行した。表現型の解析にDNAコーミング法による複製ストレス時の複製フォーク伸長および複製起点発火の解析や複製ストレスによるチェックポイントの変化解析ではHERC2とBLM複合体との相関性を明らかにするができなかった。いずれも複数の関連因子がほぼ同時に同一経路に関わっていることにより、このような解析手法では結果を得ることが困難と結論をつけた。蛍光免疫染色解析では、HERC2分子とストレス応答時核内foci形成するRPA分子との共局在が解消されて、BLMやWRNとの共局在も解除されたことから、RPA分子がヘリカーゼへのアクセスにはHERC2分子のスキャフォルド的な役割が極めて重要と考え、HERC2分子が一本鎖DNAにRPA分子を装着する仮説を立て、vitro実験で検証して、HERC2がBLMと複合体形成することはBLM機能に与える影響が極めて大きいと結論をつけた。この研究にとっては大きな前進だった。HERC2の欠失やE3活性の失活によるG4の蓄積やSCEの亢進について、siRNAを用いた実験の解析では、HERC2が細胞内最も重要な二つのヘリカーゼであるBLMおよびWRNとRPAの結合を調節することによってG4制御と姉妹染色分体交換の抑止に機能していることが明らかになった。薬剤感受性の解析では、HERC2の欠失やE3活性の失活細胞はDNA架橋剤や複製阻害薬などの薬剤に対して高い感受性は示さず、G4安定化剤だけに特異性の高い薬剤感受性を示した結果が得られた、G4安定化剤が新規分子標的薬になりうる可能性を示した。研究結果を第77回日本癌学会学術総会にて発表し、Cancer Res.誌に公表した。研究期間内に明らかにする予定目標がほぼ達成できた。
本年度の研究で、予定していた研究期間内に明らかにする目標がほぼ達成でき、論文をまとめ、公表したが、研究を進めていく過程で、新たな課題も幾つか浮かび上がってきた。HERC2やDNA損傷応答に関する新たな知見の発掘に更なる挑戦をしていきたいと考えている。HERC2はRPA2の新規ユビキチンリガーゼであることを本研究によって明らかになった。これは本来想定していた結果ではなかったが、HERC2のE3活性喪失がヘリカーゼBLMおよびWRNとRPA分子の結合に大きな影響を与え、G4の蓄積と高頻度の姉妹染色分体交換も誘発されたため、このユビキチン化修飾は生体にとって最も重要な二つのヘリカーゼであるBLMおよびWRNの機能調節や、G4の解除制御機構にも極めて重要であることが示唆された。その生物学的意義の解明は極めて重要である。このユビキチン化修飾は細胞内のどこで起こるか、どのようなシグナルによって誘発されるか、またはどのようなシグナルとして機能するか、どのようなユビキチン鎖が付加されるかなど、新たに多くの問題が生じた。これらの問題解決に向け、解析をさらに進めていきたいと考えている。RPA2のユビキチンリガーゼにはRFWD3とPRP-19が既に同定されている。RFWD3とPRP-19はDNA損傷修復の過程でRPA2をユビキチン化することによって修復タンパク質のリクルートやRPA分子のクロマチンからの解離促進で相同組換え修復に機能するとも言われているが、果たしてHERC2のRPA2に対するユビキチン修飾も相同組換えに機能するのか、それともG4の解除制御に特化したシグナルとして機能するのか、RFWD3とPRP-19によって付加されるユビキチン鎖との違いに着目し、比較解析しながら、HERC2のG4解除制御と姉妹染色分体交換抑止機能の具体的な仕組みを明らかにしていきたいと考えている。
本研究は着実に成果を出せるように多方面多角度から研究計画を練っており、精度の高い仮説が立てられたことと正確さと精度の高い実験の実施に心がけたことによって、予想よりも早く成果を出せた。無駄が少なくすることができたことは次年度使用額が生じた最も大きな理由だった。shRNAの安定発現細胞の作成成功や、感度の高い抗体が入手できたことによって、実験の使用材料を大幅減らせたことと実験の回数も多く減らせたことで、経費の削減成功にも繋がった。節約への心構えを常にしておくのも一因だった。来年度、HERC2のRPA2分子に対するユビキチン化がDNA複製とストレス応答における生物学的意義の解明を最重要課題として研究を展開していく予定で、その資金を新たに必要とされるsiRNA、トランスフェクション試薬および対応抗体の購入に充てる予定。予備実験の結果から、新規論文の作成と投稿もほぼ確実となってきたため、そこに新たに発生する費用にも充てていく予定。
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Cancer Res.
巻: 78 ページ: 6371-6385
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http://www.marianna-u.ac.jp/t-oncology/index.html