研究課題
炎症が背景として生じる大腸がんは,散発性の大腸がんに比べて発がんに至る遺伝子変異や遺伝子変化を生じる発がん段階ならびに導入される順序も異なる.そこで本研究は炎症性大腸発がんにおけるドライバー遺伝子の同定を目的に,マウス由来の腸管上皮組織をオルガノイド培養し,ヒトにおける炎症性大腸発がんの多段階過程に見られるどの遺伝子変化・変異が炎症性の腸管発がんと結び付くのかを検討する.炎症の誘発には生体外異物を用いた.K-ras遺伝子変異とAPC遺伝子ノックダウンを組み合わせた雄マウスに由来する腸管オルガノイドを雌性ヌードマウスに生じさせた異物誘発慢性炎症下に置くと移入数日後より増殖することを認めた.p53遺伝子ホモ欠損マウスから得た腸管組織由来オルガノイドを上記と同様の慢性炎症下に置くと,移植後数ヶ月経過後より腫瘍増殖した.その組織型は線維肉腫であった.この増殖腫瘍は雄マウス由来の腸管オルガノイドであることはY染色体の存在により確認した. p53遺伝子ヘテロ欠損マウスから得た腸管オルガノイドを慢性炎症下に置いても腫瘍増殖個体は得られなかった.これらの成果を踏まえ,今年度は,p53遺伝子ホモ欠損マウスの腸管由来オルガノイドにがん抑制遺伝子(DCC,APC, p53)のshRNA,COX-2遺伝子発現ベクターの導入,そして活性化K-rasがん遺伝子のノックインマウス由来の腸管オルガノイドを用いて当該研究の目的を達成する実験を施行した.
3: やや遅れている
平成30年度の研究実施計画に則った計画実験を遂行した.当該研究の目的である炎症性大腸発がんに関わるドライバー遺伝子として,p53遺伝子変異は必須と考えられた.これに加えてどのような遺伝子変異が必要であるのかを決定する候補遺伝子としてshRNA(DCC,APC遺伝子),発現ベクター(COX-2遺伝子),ならびに活性化K-rasがん遺伝子のノックインマウス由来の腸管オルガノイドを用いて,異物誘発の慢性炎症組織に移植を行った.現在経過を観察中である.平成30年度の当初研究計画には,上記に加えて炎症発がんに伴うシグナル解析を計画していた.しかしながら,前述の移植を終えたが,腫瘍の増殖が観察されていないことから,シグナル解析にまだ着手することが叶わない.腫瘍増殖を認め次第,その組織型の解析とともにシグナル解析に着手する予定である.
当初の実験計画に対し,結果が得られるまでの遅れはある.しかしながら,概ね当初予定の検証ならびに確認を終え,実験材料等の準備を完了して,計画に従い実験を遂行・観察中である.腫瘍の出現に伴い,当初の研究計画を実施し,多少の遅れは予想されるが概ね研究期間内に結論を得ることが可能と考えている.
移植後の腫瘍出現を現在観察中である.生じる腫瘍組織を用いて,初めてシグナル解析を実施することができるため,腫瘍組織が得られていない時点においてシグナル解析に係わる物品費等の支出ができなかったために次年度使用額を生じた.しかしながら,腫瘍の出現と共に当初計画に則り実験を即時に実施する予定であるため,増額分を含めて使用し,研究を完結する予定である.
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