研究課題
神経膠腫(グリオーマ)は、高度な浸潤能と異常な血管新生を伴う悪性腫瘍であり、その進行過程で既存の細胞外マトリックス(ECM)の産生と分解を伴っており、ECM分子の代謝(合成と分解)によって創出された特異な組織内微小環境が悪性化や異常血管新生に深く関わっている。これまでの本研究により、ECM分子のフィビュリン-7(Fibulin-7 = Fbln7)が膠芽腫で増生した異常血管の血管内皮細胞と周皮細胞で高発現することを示し、VEGF刺激した培養血管内皮細胞がFbln7を発現亢進するとともに、Fbln7はそN末端ドメインを介してAng1と特異的に結合することを明らかにしてきた。本年度は、Fbln7-Ang1複合体形成の細胞レベルでの作用を評価するために、血管内皮細胞と血管周皮細胞を用いた新規共培養系を確立した。本共培養系の細胞を高濃度(500 ng/ml)のVEGFで刺激すると、膠芽腫の異常血管にきわめて類似した異常血管構造を再現することができた。そこで、Fbln7やAng1のドメイン特異的な特異抗体や合成ペプチドを共培養系に添加することで、異常血管形成がFbln7のN末端sushi ドメインとAng1のN末端ドメインを介した相互作用で生じることを実証した。また、siRNAでFbln7の発現をノックダウンした血管内皮細胞を共培養することでも同様な効果が得られ、以上のデータをまとめて論文発表した。本研究データは、膠芽腫の血管内皮細胞や周皮細胞で過剰発現したFbln7が、Ang1/Tie2系シグナルを阻害することでAng2-/Tie2系を優位にし、VEGF誘導性異常血管形成に関わる可能性を示唆している。
2: おおむね順調に進展している
平成30年の研究のprogressは、血管内皮細胞と周皮細胞を用いた新規共培養系を開発し、高濃度(500 ng/ml)のVEGF刺激で膠芽腫に類似した異常血管構造をin vitroで再現する実験系を確立した点で大きな進展があった。本共培養系では種々の因子の添加実験のみならず、siRNAを用いて遺伝子発現をノックダウンした実験にも応用できることから、本共培養系は今後の血管新生研究に大きく貢献できると考えている。
我々の共培養法にしたがって、血管内皮細胞と膠芽腫細胞あるいは血管内皮細胞と軟骨細胞などの共培養系を新たに開発し、血管内皮細胞と直接接触する細胞外マトリックスやそれを形成する細胞との相互作用によって血管新生がどのように制御されるかを検討する。また、Fbln7はある種のMMP(matrix metalloproteinase)で分解されるとの予備データを有していることから、Fbln7分解物のN末端アミノ酸配列の同定とともに、Fbln7分解による細胞機能変化を調べる予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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