研究課題/領域番号 |
17K08951
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山本 浩一 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (40362694)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ヒスタミンH4受容体 / 抗悪性腫瘍剤 / 悪心 / 食欲不振 / マウス / 倦怠感 |
研究実績の概要 |
実験機器の調達状況から、本年度は遅発性悪心の発症に起因する標的候補の特定に特化して研究を実施した。炎症に伴って産生されるTNF-αなどサイトカインは感染防御や免疫系の調節因子として機能するが、これらサイトカインは中枢神経系に影響を及ぼして倦怠感に随伴する食欲不振、うつ、睡眠障害を誘発する。また、倦怠感治療に抗炎症作用を有する副腎皮質ステロイド剤が使用されていること、抗悪性腫瘍剤によってTNF-αがマクロファージ内、視床下部・延髄内で発現増加することを申請者自身が確認していることから、遅発性悪心発症には炎症性サイトカインが関与するのではないかと考えた。一方、2000年に存在が明らかになったヒスタミンH4受容体は単球、マクロファージの細胞膜に存在し、遊走制御やサイトカイン分泌など炎症反応惹起に関係している。申請者は以前H4受容体に特異性の高いリガンド創製に関わり、さらにシスプラチンがマクロファージ内で誘発するTNF-α産生にH4受容体が関与することを見いだしている。この経験を基にして、ヒスタミンH4受容体が抗悪性腫瘍薬誘発遅発性悪心の発症に関与するか否か基礎的検討を行った。遅発性悪心の指標として、「摂餌量の減少」を使用した。抗悪性腫瘍薬シスプラチン7.5mg/kgを腹腔内投与したマウスの摂餌量は投与前と比較して、投与2日後・3日後にはそれぞれ50%、30%まで減少したが、H4受容体遮断薬のJNJ7777120を連日10mg/kg皮下投与すると、摂餌量の減少を有意に抑制することができた。また、シスプラチン投与2日後・3日後の脾臓・脳内ではTNF-α mRNAの発現が増加したが、JNJ7777120は有意に抑制できた。つまり、抗悪性腫瘍剤による遅発性悪心の発症には生体内で産生されるTNF-αが起因する病態であり、その治療標的としてH4受容体の可能性を発見するに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の達成目標は(1)悪心の客観判定技術を確立と、(2)遅発性悪心の発症に起因する標的候補の特定としていた。当初予定では嘔吐する動物のスンクス(house musk shrew)を用い、スンクスの姿勢や睡眠/覚醒状態、皮下血管収縮程度、自律神経症状を取得し、総合解析することで1匹の動物で悪心と嘔吐を精度良く弁別できるとの企画を立案した。しかし、課題申請者の実験環境ではスンクスによる実験遂行が困難であったため、平成29年度はマウスによる実験系を実施した。 今回、悪心の評価法として随伴症状である「食欲不振」を選択し、また標的候補をヒスタミンH4受容体に着目して、遅発性食欲不振発症におけるH4受容体の役割について受容体特異的リガンドを用いて明らかにすることで、H4受容体を標的とする遅発性悪心治療法への展開を検討した。種々の実験を行った結果、H4受容体遮断薬の有用性の端緒を開くことができた。このことから、研究課題の進捗状況は概ね順調に進呈していると考えた。
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今後の研究の推進方策 |
悪心を感じていると不動となるが、不動状態が続いたからといって必ず悪心を感じているとは言い切れず、睡眠の可能性もある。この不動おいて睡眠状態かを判定するために脳波パターンを解析する必要がある。このため、抗悪性腫瘍剤投与の後の脳波変化から実験動物の悪心発症における病態的特徴を検討する。しかし、記録データを手作業で解析することは困難である。ディープラーニング技術は、予め分類されたデータをシステムに学習させるとニューラルネットワークが自動的に複数の特徴を分類し、その後未知データが入力されると、過去に学習したどのタイプの分類に近いか識別を行うもので、画像認識の分野で活用されている。そこで、ディープラーニング技術によるリアルタイム悪心自動判定システムの開発も併せて行う。 ところで、ヒスタミンH3受容体は平成29年度に治療標的として着目したH4受容体のアミノ酸配列と60-70%程度の相同性を有しており、H4受容体に関わる薬剤の多くはH3受容体にも作用することが知られている。H3受容体は神経終末に存在し自己受容体として機能し、中枢でのヒスタミンを含めた生理アミンの遊離や神経活動性の調節に関与しているが、H3受容体逆作動薬は中枢での情報伝達物質遊離を促進させるため認知機能障害や睡眠障害の改善作用がある。抗悪性腫瘍薬による睡眠障害が悪心や倦怠感の発症原因となりうるとの報告もあるため、遅発性悪心発症におけるH3受容体の関与と、治療の可能性を探る研究についても検討を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初スンクスによる実験ならびに脳波装置購入を予定していたが、実験動物が特殊であるがゆえ、実験環境の問題から平成29年度はマウスの摂食行動を指標とした実験を実施した。平成30年度は脳波装置の購入など計画を行っている。
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