平成29年度と平成30年度の成果を受け、平成31年度(令和元年度)は抗悪性腫瘍薬が誘発する遅発性悪心の発症には「抗悪性腫瘍剤による睡眠障害」が起因すると考え、その確証のための研究を実施した。 通常、悪心を感じているとヒトを含め動物は不動となるが、不動状態が続いたからといって必ず悪心を感じているとは言い切れず、睡眠している可能性もある。申請者の過去の経験から抗悪性腫瘍薬投与後のマウスも投与後長時間不動していることを確認していたが、睡眠状態か否か判定が必要であった。平成30年度に予備的検討を行うため簡易的な脳波計測機器を導入し、抗悪性腫瘍剤投与の後の脳波変化を計測した。その結果、抗悪性腫瘍剤投与後のマウスにはδ波やθ波に相当する脳波が多く見られた。ただ、この測定では摂餌行動などと同時に計測することが難しかった。 近年、マウスやラットの呼吸を圧センサーでモニターすることで睡眠-覚醒状態を判定する装置が開発された。種々協力を得てこの装置を短期間利用して実験を試みたところ、抗悪性腫瘍薬の投与により「活動期における睡眠の軽度増加」といった概日リズム障害を示す傾向が確認された。 これまでの研究において、オレキシン作動薬やH3受容体逆作動薬といった覚醒効果に寄与する薬剤の投与により抗悪性腫瘍薬が誘発する遅発性悪心が改善できていることから、抗悪性腫瘍剤による遅発性悪心の発症にはH4受容体を介したTNF-α産生増加に加え、ヒスタミン・オレキシン神経系の活動低下抑制によるものであることが判明し、これらの受容体が治療標的になりうることが判明した。
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