我々は、甲状腺濾胞内に高濃度で蓄積するサイログロブリン(Tg)が、TSHの作用と拮抗して濾胞単位で甲状腺ホルモン生合成や分泌を調節していることを明らかにしてきた。そこで今回、Tgによって調節を受ける遺伝子の更なる同定を行う目的で、ラット甲状腺FRTL-5細胞の培養液中に種々の濃度のTgを添加し、経時的にmRNAを調製してDNAマイクロアレイによる網羅的な解析を行った。 初年度はリソソーム内でホルモン前駆体としてのTgを加水分解し、ホルモン分泌促進に寄与するcathepsin HのmRNA発現量および活性がTg処理によって増加すること、およびcathepsin HとTg が細胞質のリソソーム中で共局在することなどを明らかにした。 2年目はMITとDITまたは2分子のDITが縮合して甲状腺ホルモンT3/T4が合成される際に、ホルモン合成に使用されなかったMITとDITから脱ヨード反応によってヨードを再利用するための酵素であるDehal1の発現が、Tgによって抑制されることを証明した。 最終年度には、濾胞上皮基底側膜に発現しヨードを細胞内に取り込む輸送体SLC5A5、および内腔側に発現しヨードを濾胞腔内へと運ぶ輸送体SLC26A4とともに、最近同定された内腔側輸送体SLC26A7の発現全てがTSH存在下であってもTgによる強い負の調節を受けることを示した。 すなわち本研究によって、Tgはホルモンの分泌を加速させるcathepsin Hの発現を誘導し、ヨードの輸送や再利用を担うSLC26A7やDehal1の発現を抑制することなどが初めて明らかにされた。このことから、充分量のTgが蓄積した甲状腺濾胞においては、それ以上のホルモン合成を止め、蓄積したホルモンを分泌する役割に転じるものと考えられた。
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