研究課題
現在科研費基盤Cのテーマに繋がるべく、Ph染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)細胞株で抗がん剤イマチニブ耐性細胞株NphA2/STIRに対し新規治療の探索結果を論文化した (Inoue et al. Biochem Biophys Reports 2018)。9番染色体と22番染色体の相互転座はBCR/ABL融合遺伝子を生じ、その遺伝子産物は恒常的なチロシンリン酸化酵素ABLの恒常的な活性化を示し、慢性骨髄性白血病(CML)およびPh+ALLを発症させる。これら疾患の治療において、このABLチロシンキナーゼに対する特異的な阻害剤Imatinib (IMT)の導入は飛躍的な治療成績の改善をみた。しかし多くの抗がん剤の例に漏れず治療継続中にIMT耐性を示す症例の報告が引き続いた。その理由として、ABLの過剰発現あるいはBCR/ABLの突然変異によりIMTの効果が消失する事が上げられている。耐性克服の目的で、第一世代IMTに引き続きDasatinib (DST), Nirotinib (NRT)さらには第3世代のPonatinib (PNT)が開発された。特にPNTは現在報告のあるほぼ全てのBCR/AVL遺伝子変異に効果があるとされるが、予想外な事に心筋梗塞を初めとする重篤な血栓症の発症が報告され、慎重な投与が要請されている。したがってより安全で効果のある新規治療法が切望されている。我々はPh+ALL細胞株のNphA2およびそのIMT耐性株NphA2/STIRを比較検討することにより、NphA2/STIRにたいするアポトーシスならびに細胞内シグナル伝達系阻害剤の効果を検証した。研究の結果、BLC2阻害剤 ABT-199 とJNK阻害剤 SP600125が単独で、さらには併用で優れた殺細胞効果を示した。これらの結果は将来の治療薬の臨床応用の基礎になりうると思われる。
2: おおむね順調に進展している
今回は、申請しているテーマのファイトケミカルと抗がん治療との関連の研究成果が現在リバイス中であるので、平行して行っていて論文化できたPh+ALLに対するBCL2阻害剤ならびにJNKシグナル伝達系阻害剤SP600125の殺細胞効果の解析を研究成果として報告した。実際にはこれらPh+ALL細胞の抗がん剤耐性機序の解析はファイトケミカルの抗がん剤作用の解析を通して臨床応用の可能性を検索する本研究プロジェクトでの更なる研究の方向性を広げる事に繋がり、意義のある事と考えられる。
現在、英文誌に投稿中の論文のリバイスに精力的に取り組み、受理を目指す。その後には、CMLならびにPh+ALLのイマチニブ耐性細胞にも有効なポナチニブの作用機序の解明を通して、各種のファイトケミカルにポナチニブと同様の作用機序、有効性が期待できるかどうかについて解析する。
研究用試薬である抗体の一部が予定価格より安価に購入できたので、支出上に端数が出た。この差額は、次年度に予定している消耗品のチップの購入に充てる予定である。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件)
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