研究実績の概要 |
スフィンゴ脂質代謝産物は、細胞内あるいは細胞間の情報伝達物として細胞増殖、細胞運動、細胞死等への関与が注目されており、特に細胞内セラミド/スフィンゴシン1リン酸の細胞内比率が重要と考えられている。これら代謝産物の比率の調節は、代謝酵素の発現レベルならびに活性の調節が主要な役割を演じている。 植物由来のレスベラトロール(RVT)は、高濃度では細胞障害作用を果たすことが示され、その臨床的有用性が期待されている。しかし、その抗がん作用には高濃度のRVT が必要とされ、臨床的なRVT の有用性は現状では困難とされている。そこで、我々の共同研究者である野澤博士らのRVT4量体バチカノールC (VTC)の報告 (Carcinogenesis 2003) をもとにして、この物質の更なる解析を行った。共同研究者の伊藤博士(岐阜薬科大学)から供与されたRVTを含めその2量体から8量体まで計15種の物質の細胞障害作用を検討し、上記の野澤グループの報告のごとくVTCが最も優れた殺細胞効果を示す事を確認した。3種類の異なった抗がん剤に対して親株とその耐性株をそれぞれ用意して検討した所、親株、耐性株共にVTCに感受性を示し、その作用がカスペース阻害剤 ZVAD-FMK で阻害されうるアポトーシスによる事を確認した。VTCはsphingosine kinase 1 and 2, glucosylceramide synthaseの発現を強く抑制し、細胞内セラミドを増加させ、sphingosine 1-phosphate (S1P) レベルを低下させた。S1Pの添加がVTCの殺細胞効果を抑制した。またSPHK1, SPHK2, GCSの阻害剤を用いた実験から、これらの酵素レベルの変化がceramide, S1Pの細胞内レベルを変化させ、細胞死を引き起こす原因の一つである事を、初めて明らかにした。
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