研究課題/領域番号 |
17K09421
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高橋 健 京都大学, 医学研究科, 助教 (60594372)
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研究分担者 |
石井 健 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所, 医薬基盤研究所 ワクチン・アジュバント研究センター, センター長 (00448086)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | がん免疫 / 自然免疫 / ワクチン / 肝がん / 消化器がん |
研究実績の概要 |
腫瘍局所の自然免疫を賦活化するin situ ワクチンは、腫瘍穿刺が日常臨床でおこなわれている消化器がんでは将来有望な治療法となりうるが、その有用性は明らかでない。本研究はin situ ワクチンの消化器がん、特に肝がんにおける有用性をモデルマウスで明らかにすることを目的として計画された。今年度は、おもに、本研究で使用予定としていた新規のTLR9リガンド(K3-SPG)の自然免疫応答誘導の確認と、モデルマウスの作成を実施した。ヒト末梢血単核球を分離し、K3-SPG, 従来型のTLR9リガンド(K3とD35), TLR7リガンド(Resiquimod)で刺激した。K3-SPGは、K3やD35よりもIFNaやIL-6産生能が強いことがELISAで確認された。また、Resiquimodとの比較では、IFNa誘導能はK3-SPGが、IL-6誘導能はResiquimodが強いという結果を得た。マウス脾細胞を分離し同様の刺激実験をおこない、K3-SPG 刺激にて、強力なIFNaやIL-12などのサイトカイン産生がELISAで確認された。腫瘍免疫ではI型IFN誘導型の自然免疫応答が重要であり、これらの結果から、K3-SPGがin situ ワクチンによる腫瘍免疫誘導に有用であることが示唆された。モデルマウスの作成に関しては、同所性移植がんモデルマウスを目指しているが、初年度は、手技の確実性、簡便性から、消化器がんの皮下移植マウスモデルの作成を試みた。肝がんモデルとしてHepa1.6細胞株、大腸がんモデルとしてColon26細胞株、膵がんモデルとしてKPC-3m(KPCマウスより樹立した膵がん細胞株)を用いて、それぞれの癌腫の皮下移植マウスの実験系を確立した。各モデルでの腫瘍増殖曲線や生存曲線に関する予備実験をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、本研究の独自性を規定するK3-SPGの自然免疫活性化能、特に腫瘍免疫に重要なI型IFN応答の誘導能をヒトとマウス細胞で確認した。また、肝がんのみならず、大腸がん、膵がんの皮下移植マウスモデルを確立し、それぞれの腫瘍成長曲線や生存曲線を解析した。同所性移植肝がんモデルマウスの作成に関しては、既報にのっとりHepa1.6細胞を経門脈的に投与して確立することを試みたが、これまでのところ同モデルの安定した作成までには至っていない。しかし、上記のとおり皮下移植モデルは確立されており、マウスを用いたin situ ワクチン実験の準備環境は整ったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、肝がん、大腸がん、膵がんの皮下移植マウスモデルを用いて、K3-SPGのin situ ワクチン実験を行い、腫瘍縮小効果、生存延長効果を評価する。さらに、抗PD-1抗体療法との併用効果の解析、abscopal効果の評価(in situ ワクチン実施側と対側の皮下移植腫瘍の縮小効果)、腫瘍局所における遺伝子発現プロファイル解析、腫瘍浸潤細胞のFACS解析、免疫誘導性細胞死の評価などを併せておこなう。また、初年度に引き続き、同所性移植肝がんモデルマウスの作成を試みる。また、自然発がんモデルマウスとして、Diethylnitrosamine誘発肝がんモデルマウスの作成も開始する。なお、RIG-Iリガンドの腫瘍内注入に関しては、K3-SPGのI型IFN産生能が既存の自然免疫活性化リガンドと比べて非常に強いことが確認されたことや、K3-SPGのみでも免疫誘導性細胞死の誘導が報告されていることから、まずはK3-SPG単剤投与の抗腫瘍効果を試みることとし、抗腫瘍効果が弱い場合にはRIG-Iリガンドの腫瘍内注入併用を試みることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
上記のとおり、肝がんを含む消化器がんの皮下移植マウスモデル作成は確立されたが、これまでのところ、同所性移植がんモデルマウスの安定した作成には至っていない。このため、超音波ガイド下の腫瘍穿刺の研究環境が整っておらず、当初の計画では初年度の設備備品費として計上していたマウス専用超音波装置Vevo2100の付属装置であるニードルインジェクターユニット(VS-11934)の購入をおこなっていない。同所性移植がんモデルマウスの作成が安定し、実験環境が整い次第、購入予定である。
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