研究課題/領域番号 |
17K10014
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
磯尾 直之 帝京大学, 医学部, 講師 (80420214)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | マラリア / エクソソーム / エンドサイトーシス |
研究実績の概要 |
これまで我々は、マラリア原虫に感染したホストの血小板から CD36+CD41+エクソソームが放出され、感染赤血球がこれを取り込むことにより、赤血球膜と内部原虫の apycal membrane に脂質受容体 CD36 が移行すること、原虫がこれを利用して宿主 HDLを取り込むことにより、増殖に必要なコレステリルエステルを供給されていることを示してきた。 本年度の最大の焦点となったのは、「エクソソームはどのようにして感染赤血球、さらに内部のマラリア原虫虫体に移行するか」という問題であった。巨核芽球由来 cell line である CMK11-5を in vitro で分化誘導し、放出させたエクソソームを精製し、さらに蛍光色素 DiIで標識した。これを感染赤血球と共培養し、詳細な観察を繰り返しおこなった。その結果、大半の感染赤血球では、赤血球細胞膜と内部原虫の両者に DiIシグナルが観察されたが、一部の感染赤血球では細胞膜に殆どDiIシグナルがないにもかかわらず、内部原虫から強い DiIシグナルが観察されるという、きわめて興味深い現象がみられた。前者のシグナルパタンは恐らくエクソソームが赤血球膜と一旦融合した状態を反映し、後者はエクソソームがエンドサイトーシスにより赤血球内部に取り込まれた状態を見ていると想定される。なお、非感染赤血球ではまったく DiIシグナルが検出されなかった。 エクソソームの標的臓器・細胞への取り込まれにつき、これまでも複数の経路が示唆されてきたが、今回の結果はそれらの仮説を confirm するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画とは少々方向性が異なったものとなったが、エクソソームの放出機構や取り込まれ経路に関する興味深い知見が得られ、十分に評価されるものになったと思われる。本研究のこれまでの成果はNature (letter)に投稿すべく準備され、現在校正の最終段階である。 タイトルは、'Malaria Parasites Hijack Host Receptors for Lipoprotein Uptake Using Platelet-Derived Exosomes'、 概要は以下である。 (1)マラリア原虫は自身では生合成できないステロールを宿主から得るために、巧妙な手段を用いている。(2)寄生している赤血球には本来、脂質受容体が殆どない。(3)感染したホストでは血小板が活性化され、CD36+CD41+エクソソームが放出される。(4)CD36+CD41+エクソソームは感染赤血球、および内部のマラリア原虫虫体に移行し、その結果赤血球膜と原虫虫体にCD36が観察されるようになる。これを利用して原虫はホスト血漿のリポ蛋白(HDL)を取り込み、コレステリルエステルを供給される。(5)CD36の低分子アンタゴニストであるBLT-1は、上記のHDL取り込みを用量依存的に抑制し、in vitroで熱帯熱マラリア原虫の増殖を抑制する。(6)CD36(-/-)マウスは、コンジェニックのコントロールマウスに比較し、感染後の原虫増殖が緩やかで、有意に長生きする。
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今後の研究の推進方策 |
三日熱マラリア原虫のin vitro cultureの試み これまで、三日熱マラリア原虫(Pv)の全ステージのin vitro cultureにはいずれの研究グループも成功していない。我々はPvが幼若赤血球または網状赤血球に偏向性があることに注目した。これらは成熟赤血球と異なり、わずかながらCD36を有している。一方熱帯熱マラリア原虫(Pf)はそのような偏向性がない。Pf特異的な蛋白であるPfEMP-1はCD36と非常に親和性が高く、おそらくPfはPfEMP-1を持つことによりCD36を効率的に感染赤血球に集積し、必要な脂質を取り込むという進化を遂げた生物種と思われる。この点に鑑み、Pvの培養のためにはCMK11-5から精製したCD36+CD41+エクソソームを培地に加えることが有用であろうという仮説を立てている。ViableなPvを得るため、東大医科研病院の患者検体を用いる予定で、既に同大学に研究倫理申請書を提出した。
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次年度使用額が生じた理由 |
血小板由来エクソソームが脂質受容体CD36をマラリア原虫感染赤血球に輸送することを証明するため、適切な細胞株選択、細胞分化方法、エクソソーム回収方法を工夫する必要がありこれに予想外の時間を要した。さらに連携研究者および他の共同研究者の転勤があり、計画遂行が遅延した。しかし最終的には完全に諸問題を解決し、現在論文投稿(Nature(Letter))中である。Reviseのために2020年度にある程度の使用額を残しておく必要があると判断された。
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