研究課題
我々はこれまで、放射線治療により誘導される抗腫瘍免疫が、がん治療における重要な役割を担っていることを明らかにしてきた。本研究課題ではさらに、抗腫瘍免疫を積極的に利用して治療効果を増強する、“免疫放射線療法”を開発するための基礎的検討を行う。当施設では、多数の進行子宮頸癌放射線治療を行っており、均質かつ高精度な臨床情報を有する患者コホートを有している。治療前生検組織の免疫染色により、腫瘍組織へのCD8+リンパ球の浸潤数や、PD-L1分子の発現量など免疫学的特性(免疫Signature)と予後の相関を検討している。一方で、免疫染色では検討できる分子の数に限りがある。そこで試料由来のDNAを用いた変異解析を行い、放射線治療応答性に関与する因子のより高次的な解明を試みた。免疫signatureと、それに影響を与える、ドライバー変異など体細胞変異との関連が明らかとなれば、これは全く新しい知見となる。患者コホート188例中112例を選定し、409癌関連遺伝子のターゲットシーケンスにより変異遺伝子を同定した。日本人コホートを対象とした子宮頸癌の網羅的遺伝子変異解析は本研究が初であるが、欧米人、アジア人を対象とした報告と同様に、PIK3CAやFBXW7、ARID1Aの変異が高頻度に認められた。一方で大変興味深いことに、FGFRなどレセプターキナーゼ遺伝子の変異を20%程度認め、これらの症例では治療反応性、予後共に不良であることを新規に見出した。子宮頸癌は抗がん剤に対する奏効率が低く、一方で、レセプターキナーゼ遺伝子に対する分子標的薬剤は既に他がんで臨床応用されているために、医師主導治験などで速やかに臨床導入出来る可能性がある。今後はさらに、変異遺伝子が免疫Signatureに与える影響を検討する。
1: 当初の計画以上に進展している
当初、主に免疫染色による感受性因子検出を予定していた。しかし免疫染色等タンパクを標的とする検出方法は、対象分子毎に検出抗体が必要なこと、検鏡が必要なことより、検討できるタンパクの数に限界がある。そこで試料由来のDNAを用いた変異解析を組み合わせれば、網羅的・より高次的な情報が得られると考え、文科省科研費助成事業「先進ゲノム支援」を依頼し、2017年度、2018年度に採択された(札幌医大拠点・佐々木泰史先生、時野隆至先生)。当施設で2006年1月1日から2013年11月30日までに治療を行った子宮頸癌患者275例中、以下の条件を満たす188例の腫瘍生検・ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)検体抽出DNA試料(初発症例、放射線または化学放射線の標準治療を受けている、使用可能な生検組織の保存がある、画像による評価がある、研究同意を得られている)を対象として、がん関連遺伝子、および薬剤代謝・感受性関連遺伝子に対するアンプリコンシーケンスにより、体細胞変異に加え、コピー数異常の同定を依頼し、そのデータを当施設の有する臨床データと、免疫染色等の当初予定されていた取得データと組み合わせることで、より高次的な解析が可能となった。新規に予後規定遺伝子変異を見出し、また、免疫Signatureにおける変異相関の検討が可能となった。
引き続き免疫染色、変異遺伝子解析を進め、免疫Signatureとドライバー変異の相関について検討する。このことは現在までに全く報告されていない新しい知見となる。現在、日本人子宮頸癌患者における遺伝子変異を高精度・安価に検索するカスタムNGSパネルを開発し、別コホートを用いたvalidation studyを行っている。また低侵襲で遺伝子変異を同定することを目的として同パネルを用いたliquid biopsyを開発している。また、我々が今回行った子宮頸癌の遺伝子変異検索に関連して、個別化医療として遺伝子パネル検査が2018年度より先進医療収載された。子宮頸癌患者がこの検査を受けた場合、本研究が唯一の、変異遺伝子と治療反応性・予後との相関を知るためのリファレンスとなる。研究成果を社会に還元するためにも速やかな論文化を行うとともに、今後は稀少な組織型や、全エクソン解析へ研究を拡げて行きたいと考えている。
当初、免疫染色による予後規定因子探索を予定していたが、2017年度、2018年度先進ゲノム支援事業採択により、NGSを用いた変異解析により効率的に因子探索を行えた。この解析結果により、免疫染色等、従来の解析手法を適応する因子を選定する。当初は予想しなかった因子が候補となっており、その解析を追加で行う。
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Oncotarget
巻: 9 ページ: 32642-32652
10.18632