研究課題
膵癌組織に豊富に存在する細胞外マトリックスのリモデリングといった癌微小環境における物理的な構造変化が癌浸潤や転移に関わることが知られている。本研究では膵星細胞や免疫細胞など微小環境構成細胞に着目して、基質リモデリングのメカニズムの解析を行い新たな治療法の創出を目的とする。本年度は、基質リモデリングや膵癌浸潤にとって重要なステップである基底膜浸潤についての解析を行った。膵癌切除組織から樹立した膵癌オルガノイドと膵星細胞とのコラーゲンマトリックス含有三次元培養モデルを構築し、タイムラプス撮影によって基底膜浸潤が引き起こされる動的な構造変化を詳細に観察した。膵癌の基底膜浸潤の誘導には、膵星細胞より分泌されるMMP(Matrix metalloproteinase)2や、MT1MMP(Membrane type-1 MMP)を高発現する膵星細胞との直接的なコンタクトが関与することを見出した。オルガノイド同所移植マウスモデルでは、膵星細胞のMMP2やMT1MMPのノックダウンによって基底膜浸潤や基質リモデリングが抑制されることを示して、原著論文として発表した。また、細胞外マトリックスの新たなリモデリング機構として、脂肪幹細胞由来の間質細胞が膵癌基質の供給源の一つとして関与し、S100A4を高発現する脂肪幹細胞由来間質細胞によって基質の密度が増強されるとともに膵癌浸潤に寄与することを明らかにし、原著論文として発表した。さらに、現在、GFPによって骨髄由来のリンパ球やマクロファージなどの免疫細胞を同定できる膵癌自然発生マウスモデルをプレリミナリーに作製しており、免疫細胞と基質リモデリングを介した膵癌浸潤との関連について新たな興味深い知見が得られてきている。
2: おおむね順調に進展している
ヒト膵癌切除組織及び膵癌自然発生マウスの腫瘍組織、マウス膵同所移植モデルの腫瘍組織を用いて、基質リモデリングに関わる分子の免疫組織染色による解析を行った。また、膵星細胞に発現するEndo180によって、基質に含まれるコラーゲンが膵星細胞に取り込まれ、MMP活性が亢進し新たに細胞外基質を産生することで基質リモデリングを促進することを示した。基質リモデリングによって、コラーゲン線維配列が浸潤方向へ再構築されるとともに、膵星細胞が癌細胞の間質内浸潤を誘導することを明らかにした。また、基質リモデリングや癌浸潤の重要な初期ステップである基底膜浸潤に膵星細胞の直接的な物理・生理的作用が関与することを示した。これらの知見は、基質リモデリングの新たなメカニズムを明らかにするとともに、基質リモデリングや基底膜浸潤に関与する膵星細胞を標的とする新規治療法の可能性を見出した。膵癌周囲における微小環境構成細胞として脂肪細胞に着目した研究では、基質の供給源の一つとして脂肪幹細胞由来間質細胞の存在を同定し、基質リモデリングや癌浸潤との関連を明らかにした。さらに、GFP陽性骨髄由来細胞の移植モデルを用いてリンパ球、マクロファージやTAM、さらには骨髄由来の間質細胞の浸潤と基質リモデリングや癌浸潤との関連を示す新たな知見が得られている。以上の研究成果により、進捗状況としてはおおむね順調に進展していると思われる。
膵星細胞に発現するEndo180やMMP2、MT1MMP以外の因子でも、基質リモデリングを介した癌浸潤に関わる因子の同定・解析を進める。脂肪幹細胞由来間質細胞の存在と癌細胞との相互作用による基質リモデリングの新たなメカニズムの解明につながる結果を得た。また、GFP骨髄移植モデルを用いて、基質リモデリングを誘導する免疫細胞の同定や、その組織内分布についての解析を現在進めている。今後はさらに、膵癌オルガノイドや膵星細胞、炎症細胞との共培養モデルを構築し機能変化の解析を行い、微小環境における膵星細胞や免疫細胞が基質リモデリングに及ぼす影響を明らかにする予定である。
研究計画は概ね順調に進んでおり、有効に資金を使用できたため。次年度は主に研究用試薬、器材、抗体、遺伝子改変マウスの作成に使用予定である。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件)
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