研究課題
心不全においては低ナトリウム血症が惹起されやすいことが知られており、予後への影響も指摘されている。また低ナトリウム血症は酸化ストレスを増加させることが報告されている。本研究では低ナトリウム濃度への曝露による心筋細胞内の活性酸素種(ROS)量の変化と心筋虚血耐性への影響について検討する。培養心筋細胞を用いた実験では、新生仔ラットを初代培養し、正常ナトリウム濃度群(140mEq/L)と110,120,130mEq/Lの各低ナトリウム濃度群に割り付けし、それぞれ24時間もしくは72時間曝露した。酸化ストレスに対する脆弱性についてH2O2(100mmol/L)で細胞障害を誘導しミトコンドリア膜電位を指標として評価した。また、ROS量の測定は心筋細胞をCM-H2DCFDAで染色し、フローサイトメトリーと共焦点レーザー顕微鏡で評価した。ミトコンドリアの形態的変化を透過型電子顕微鏡を用いて評価した。110,120,130mEq/Lの低ナトリウム濃度に72時間曝露した心筋細胞では正常ナトリウム濃度群に比べROS量が有意に増加した。各低ナトリウム濃度曝露により細胞内カルシウム濃度が上昇し、CaMKIIの活性化を認めた。形態学的評価では、24時間低ナトリウム濃度に曝露した細胞ではミトコンドリアが膨化し、クリステの破壊像が認められた。また酸化ストレス刺激に対しより脆弱であった。以上の結果より、低ナトリウム濃度への曝露により酸化ストレスに対する心筋細胞の脆弱性が亢進した。その機序として細胞内カルシウム濃度の上昇とCaMKIIの活性化を介したROS量の増加が関与することが示唆された。この結果を生体において確認するため、動物モデル作製を行った。成獣ラットに低ナトリウム食とフロセミド(100mg/kg)を4週間経口投与し低ナトリウム血症を誘導した。ランゲンドルフ心臓灌流装置を用いて心臓を低酸素に暴露した結果、低ナトリウム血症モデルでは左室内圧の回復が減弱しており、心筋梗塞領域の拡大を認めた。
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