研究課題/領域番号 |
17K11643
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
十川 千春 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 准教授 (10253022)
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研究分担者 |
江口 傑徳 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 助教 (20457229)
奥舎 有加 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 助教 (50762027)
大山 和美 岡山大学, 歯学部, 博士研究員 (00253021) [辞退]
中野 敬介 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 准教授 (10325095)
岡元 邦彰 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 教授 (10311846)
十川 紀夫 松本歯科大学, 歯学部, 教授 (30236153)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 薬剤スクリーニング / 腫瘍オルガノイド (スフェロイド) / マトリックスメタロプロテアーゼ / 三次元培養 / Wnt / ベータカテニン経路 / 低酸素 / 転写調節 / 創薬 |
研究実績の概要 |
癌の転移は、原発巣からの浸潤、血管内への侵入、転移先臓器での定着等の過程を経て成立する。本研究では、癌の浸潤・転移過程における腫瘍微小環境変化、すなわち上皮間葉転換、基底膜細胞外マトリックス(ECM)分解、腫瘍血管形成を統合的に評価できる新規薬剤スクリーニング系を開発することを目的とする。これまでに、癌促進性プロテアーゼであるMMP9発現機構に着目し、MMP9高発現肺転移性マウス大腸癌由来LuM1細胞にMMP9プロモーター蛍光レポーター細胞(LuM1/m9)を構築した。平成30年度は、三次元培養および培地成分等の影響で腫瘍オルガノイド形成が異なってくるとの知見(Eguchi T et al, 2018, Plos One)を手掛かりに、LuM1/m9細胞三次元培養下でMMP9発現および腫瘍形成能を多元評価できるシステムを構築した。Wnt/β-catenin経路は腫瘍形成性幹細胞シグナルとして知られているが、同時に、マウスMMP9プロモーター領域にβ-catenin/TCF/LEF結合部位が複数存在することが明らかとなった。さらに、Wnt/β-catenin経路を刺激するLiClをLuM1/m9に作用させたところ、MMP9発現のみならず腫瘍オルガノイド形成を促進することがわかった。また、本システムを利用して、大腸癌治療の第一選択薬である5-フルオロウラシル(5-Fu)を評価した結果、5-Fuは腫瘍オルガノイド形成を阻害したが、MMP9発現を阻害しなかった。さらに、これまでに腫瘍オルガノイド形成阻害を確認している薬剤群について、本システムを用いて評価した結果、腫瘍オルガノイド形成とMMP9発現の両方を阻害する複数の薬剤が見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成30年度は、前年度確立したMMP9発現評価システムを改良し、腫瘍オルガノイド形成とMMP9発現レベルを同時評価できるシステムを構築した。本システムを用いることにより腫瘍形成能と転移能の両者を阻害出来る薬剤のスクリーニングが可能となった。既存薬スクリーニングを行った結果、腫瘍オルガノイド形成とMMP9発現の両者を阻害する複数の薬剤の発見に至った。現在、それら薬剤の作用機序およびin vivo解析を進めている。これらの成果の一部は、論文発表(Sogawa C. et al, 2019 Tissue Engineering Part A)および学会発表(国際薬理学会,日本薬理学会年会)等で発表した。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、これまでの研究成果において腫瘍オルガノイド形成とMMP9発現の両方を阻害することが見いだされた薬剤についてのin vivo における抗腫瘍効果の検討と、作用機序の解明を進め、作用メカニズムの絞り込まれたリード化合物の設定を行い、新規抗腫瘍薬の開発を目指す。また、本システムをハイスループット化し、既存薬ライブラリーを利用して治療薬再開発を行う。近年、血液中を循環する循環腫瘍細胞(CTC)が、癌の転移過程の診断および治療予後を予想する目的で、検出・調査されている。本研究においてもこのことを応用し、LuM1/m9細胞をマウスに移植するCTC解析システムを確立し、薬剤による転移抑制効果の検証および癌転移メカニズム解明のために利用する。 さらに、癌の浸潤性・転移性の原因と目されている腫瘍微小環境悪性化に関わるエクソソームに着目し、腫瘍悪性化機構に基づく薬剤スクリーニング系を開発する。癌における腫瘍微小環境悪性化および臓器特異的転移は、癌細胞やマクロファージ等の免疫系細胞が放出するエクソソームに含まれる因子によって規定されるとの報告が増えている。このことを踏まえ、まず、蛍光および発光で検出・定量可能なレポーターエクソソームを免疫系細胞と癌細胞において開発する。これらの細胞を三次元共培養した内部低酸素腫瘍オルガノイドを作製し、ここから放出されるエクソソームの内包因子およびエクソソーム放出制御因子を質量分析およびマイクロRNAアレイによって網羅的解析することで、腫瘍微小環境悪性化に関わるマーカーを選別する。マーカー候補の転写調節領域を解析後、癌促進性転写因子結合配列を含むプロモーター領域をクローニングし新規レポーターを構築し、創薬に用いる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年1月末に論文が受理され、投稿料を支払う予定で経費を見積もっていたが、実際の支払いが次年度となったため。
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