研究課題/領域番号 |
17K11648
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研究機関 | 九州歯科大学 |
研究代表者 |
人見 涼露 九州歯科大学, 歯学部, 助教 (70548924)
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研究分担者 |
小野 堅太郎 九州歯科大学, 歯学部, 教授 (40316154)
古株 彰一郎 九州歯科大学, 歯学部, 准教授 (30448899)
松本 謙一郎 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 放射線障害治療研究部, チームリーダー(定常) (10297046)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アスコルビン酸ペルオキシダーゼ / シゾン / 抗酸化作用 / 潰瘍性口内炎 |
研究実績の概要 |
がん治療中に発症する潰瘍性口内炎は、放射線照射や抗がん薬によるがん抑制作用の影響が健常粘膜に及ぶことで誘発されるが、特に口腔粘膜での活性酸素種生成が関与していることが近年明らかになってきた。そこで、口腔粘膜細胞が活性酸素種(酸化ストレス)に強い抵抗性を獲得することが潰瘍性口内炎の抑制につながるのではないかと考え、我々は高温強酸環境に生息する原始紅藻シゾンの強い抗酸化作用を担うシゾンアスコルビン酸ペルオキシダーゼ (cAPX) に着目した。本研究は、高い抗酸化作用を持つcAPXを口腔粘膜細胞に発現させることによる潰瘍性口内炎の発症予防および疼痛減弱の可能性を検討することを目的とした。遺伝子導入効率が良いアフリカミドリザル腎臓由来COS7細胞、ヒト口腔角化細胞のHOK 細胞およびマウス線維芽細胞10T1/2細胞に対して、cAPX発現プラスミドまたはコントロールのMockプラスミドをリポフェクション法にて導入した。遺伝子導入効率と導入後の細胞生存率の評価後、cAPX発現細胞の抗酸化能検討のために過酸化水素刺激後の細胞生存率を評価した。COS7と10T1/2細胞ではtransient(一過性)導入後の細胞生存率に大きな差はなかった。10T1/2細胞ではcAPXの遺伝子導入効率がMOCKに比べ低かったため、stable(恒常的)導入した細胞を作製した。一方、HOK細胞は細胞増殖率が悪く、遺伝子導入効率も低かった。cAPX発現COS7細胞と10T1/2細胞での過酸化水素刺激後の細胞生存率は、両細胞ともMOCKに比べ高かった。以上より、cAPX発現細胞では抗酸化能が向上しており、cAPXの酸化ストレスに対する有効性が示された。今後は、酸刺激や放射線照射など様々な侵害刺激に対するcAPXの有効性の検討とcAPX発現動物を作製していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度は、各種培養細胞にcAPXを発現させ、侵害刺激に対する活性酸素種生成や細胞生存率の検討に加え、cAPX発現マウスやラットの作製を予定していた。しかし、HOK細胞の増殖が非常に遅く実験効率が悪かったことから、遺伝子導入する培養細胞をマウス線維芽細胞10T1/2細胞に変更した。また、10T1/2細胞においてcAPX導入効率がMockと比較して低く遺伝子発現細胞数の割合が異なっていた。そのため、stable(恒常的)導入をすることで遺伝子発現細胞割合を同程度にすることで対応した。予定していたin vivo実験は、in vitro実験にてcAPXの抗酸化能が示された後に行っていく必要があったため、現時点では実施していない。これらのことから、実験の進捗はやや遅れている、と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、cAPX発現10T1/2細胞を用いて様々な侵害刺激{酸刺激(pH2~5)、 放射線照射(3~10 Gy) および侵害熱刺激(43~52℃))に対する細胞生存率を評価していく。加えて、抗がん薬によるROS産生への抵抗性を調べるために、各種抗がん薬存在下においてディッシュ内へのスクラッチ後の細胞遊走能について評価する。cAPXの有効性をin vitro実験で確認した後、ラットの口腔粘膜や皮膚にcAPX遺伝子を一過性に導入し、潰瘍(創傷)治癒や疼痛行動を評価してcAPX発現の有効性を検討する。潰瘍発生は、活性酸素種を発生させることで知られる放射線や熱などの侵害刺激によって行い、cAPXが発現した傷害部位における酸化ストレスの軽減、潰瘍形成の抑制や治癒促進、疼痛行動抑制について統合的に組織化学的手法および行動生理学的手法により検討を加える。 本研究は、cAPX遺伝子を利用した潰瘍性口内炎治療への可能性を示すとともに、潰瘍性口内炎に対する粘膜局所での活性酸素種制御の有効性を明らかにすることが出来るだろう。
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