研究実績の概要 |
免疫抑制剤であるシクロスポリンは、臓器移植における拒絶反応の抑制やネフローゼ症候群の治療で投与され、治療効果が高い反面、薬物性歯肉増殖症などの副作用があるため、身体的・心理的負担は非常に大きいものとなる。シクロスポリンにより誘発される薬物性歯肉増殖症の発症率は、成人で25~30%、小児で70%以上と報告されているが、シクロスポリン服用小児におけるプラークの微生物学的な研究報告は皆無であり、細菌と薬物性歯肉増殖の発症メカニズムとの関連も明らかとなっていない。 本研究では、シクロスポリンを服用する小児において、その副作用である薬物性歯肉増殖症の発症メカニズムを解明するため、対象となる小児被験者のプラーク細菌を微生物学的に解析することとした。 方法として、同意の得られた4-12歳の被験者(CsA-G群:シクロスポリンを服用し歯肉増殖を有する者、CON-NG群:薬物を服用しておらず歯肉増殖のみられない者)のプラークを採取し、7種の口腔常在菌のプライマーを用いてPCR法にて細菌の検索を行った。 その結果、CON群では、Streptococcus mutans, S. gordonii, S. mitis, S. sanguinis, Porphilononas gingivalis, Actinobacillus actinomycetemcomitans, Prevotella intermedia が検出された。CsA群でも同様の菌が検出されたが、P. intermediaは検出されなかった。 本研究では小児被験者から採取したプラーク細菌を、PCRにより同定する方法を確立でき、シクロスポリン服用の有無で細菌層の違いが認められた。今後は被験者数を増やし、シクロスポリン服用の有無、歯肉増殖の有無での口腔細菌層の違いを比較し、副作用の発症と細菌との関連性を解明したい。
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