嗜好性の高い匂い(ラベンダー)に焦点化した検証をもとに、本年度は、被検者の生活環境特性を考慮した匂い成分(ヒノキ)による検証を行った。20名の被検者には、匂いに関する事前情報は与えず、適用された匂いの強度、嗜好性、想起する記憶の有無、内容と印象について調査した。また、匂いの適用前から適用終了に至る過程において、心拍(LF/HF変動)および表情電位を測定した。18名の被検者は、匂いに対する想起エピソードがあり、生活環境に関わる事項(祖父母宅、幼少期の生活など)だけでなく、出産経験等のライフイベントに関する事項等があった。想起エピソードの印象が良い者(14名)は匂いの印象を良く評価していた。しかしながら、想起エピソードの印象の違いによる、生理的反応(LF/HF変動)の特徴を見出すことはできなかった。また、被検者20名は、匂い適用前にPOMSによる気分評価を行っており、匂い適用による感情変化を表情筋電位トポグラフィにより観察した。匂いや想起内容の印象が良いと、POMSによる緊張や抑うつなどの得点が高い者の表情筋電位は特異的に変化がみられると仮定したが、特徴的な電位変化を観察することはできなかった。このことから、一時的な匂い適用でも、生理的反応としての影響を受けることなく、過去の記憶を想起しながら感情を抱いており、主観的感覚への作用が強いことが考えられた。この事について、国際学会(EAFONS2023)において報告した。
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