急速に発展するヒトゲノム研究・再生医療などの萌芽的科学技術では、その倫理的・法的・社会的課題(ELSI)の発生もまた多様化し、社会的な議論を必要とする。しかしながら、ELSIを巡る社会的な関心の所在をいかに探索し、また社会的な議題として構築していくのか、その議題探索の在り方と理論的枠組みにはまだ課題が残されている。 そこで本研究では、Guston & Sarewitz(2002)が論じるリアルタイム・テクノロジーアセスメント(RTTA)の議論を補助線としつつ、ヒトゲノム研究ならびに再生医療を事例として、定量的・定性的なメディア分析を活用した「早期の警鐘とコミュニケーション」の在り方を検討することで、萌芽的科学技術を巡る社会的議題の探索と構築に関わる課題を明らかにする。 3年の研究期間の間に、第一に萌芽的科学技術の例としてヒトゲノム研究ならびに再生医療を巡るマスメディアの言論動向についての分析を行った。第二に、TAをめぐる既存事例の精査ならびに科学技術社会論・科学技術政策論分野の蓄積を背景とした理論研究を行った。第三にこれまでの知見をまとめる形で、書籍などの形で研究成果をとりまとめ発表の準備を整えた(2020年6月出版予定など)。 とりわけ上記した成果となる書籍は、先端生命科学を中心事例としたELSI、TA、科学をめぐるメディア分析の研究群について、オリジナルデータとこれまでの学知を総合的に検討するものであり、その射程は、科学技術社会論や科学技術政策分野における知見の蓄積は勿論のこと、今後の萌芽的科学技術を巡る社会的議論の在り方の枠組み構築に寄与し、ELSIを視野に入れた適切な科学技術ガバナンスの構築に貢献するものである。
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