本研究の目的は,ヘッドマウントディスプレイ(Head Mounted Display:以下,HMD)を用いたバーチャルリアリティ(Virtual Reality:以下,VR)技術に基づいたメンタルトレーニングプログラムの開発である。令和元年度は,大学スキー部に所属しているアルペンスキー競技者11名と競技経験のない一般大学生10名を対象にHMDを用いたアルペンスキー競技会のVR映像を視聴させた。実験時の気分状態と自律神経活動について検討した結果,競技経験の有無に関わらず,自覚的な活性度や覚醒度が高められ,安定度が低下した。さらに,アルペンスキー選手はVR映像により競技場面に近似した環境を具体的にイメージすることが容易となったことから,ストレス指標とされる交感神経の亢進につながりストレス状態をもたらした可能性が示された。つまり,HMDを用いて競技会のVR映像を視聴することは,当該競技を専心的におこなっている選手には興奮状態を喚起させる刺激となることが本研究により明らかとなった。 他方,これまでのVR映像の作成には,コンピュータにより合成された人工的な映像が用いられていた。そのため,VR環境の構築には,専門的な知識や技術を有する必要があった。本研究の目的である,VRを用いたメンタルトレーニングを競技現場へ応用するためには,これらの問題への対応も重要な課題となる。 これらの課題に対応するために,今年度は新たなVRシステムの開発を目的とした。具体的には,360°撮影可能な全方向型カメラによる撮影映像からVR環境を構築し,さらにその環境内にて移動が可能となるシステムである。本システムにより,コンピュータに関する専門的な知識や技術を有さずともVR環境を構築することが可能となる。
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