研究課題/領域番号 |
17K13298
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
嶽本 新奈 明治学院大学, 社会学部, 研究員 (90795056)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 性 / 移動 / 権力 / 女性 / 「からゆきさん」 |
研究実績の概要 |
初年度にあたる2017年度は、国内での資料収集と現地調査を重点的に行った。開国以降に海を渡り渡航先で売春に従事していた「からゆきさん」をより立体的に捉えるために、「からゆきさん」が多く出たとされる九州地域の女性の労働状況、移動に使われた港の状況、そして密航の手口に関する調査に着手できた。 具体的には、「からゆきさん」を密航させるのに使われた九州地域の国際港(口之津港、長崎港、門司港)についての資料収集を行った。また島原の口之津港では当時の女性(「からゆきさん」に限らない)の状況について口之津歴史民俗資料館や、現地の方々にお話を伺うことができた。また、これまで途絶していた密航摘発記事の収集を再開することができた。 「からゆきさん」が生み出された要因を女性の(非)主体性の物語に収斂させることなく、女性が海を渡るにあたって、当時の社会経済構造、密航業者、地元警察との関係、女性の労働状況といったように多角的な視点から検討していく必要があると認識している。 他方で、これまでの「からゆきさん」研究では売春に従事していたという経験のみが注目される傾向が強かったが、「からゆきさん」となった経験が女性の生涯を通してどのような意味をもったのかについての検討をはじめた。具体的には、売春の経験によって「不妊」となってしまった女性である。森崎和江が執筆した『からゆきさん』に出てくる「からゆきさん」でかつ「不妊」の女性に着目し、ニュージーランドのヴィクトリア大学で行われたカンファレンスで報告をし、参加者にコメントをもらった。初年度は計画した研究の端緒についたばかりだが、引き続き資料収集、現地調査を行い、今後も考察を深めていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
進捗状況がやや遅れているのには理由が2つある。1つは、当初の想定よりも収集した資料の整理に時間がかかっているためであり、2つ目に、現地調査で地元の人々から話を伺うにあたって時間をかけて信頼関係を築く必要があるためである。
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今後の研究の推進方策 |
個人の力だけでこなそうとするのではなく、資料整理等はアルバイトを雇うなどより効率的に作業が捗る方法を模索して研究を進めていく。 また、しっかり国外調査の時間を確保し、資料収集および整理にあたりたい。そのためには国内で事前にできることを確認し、準備を入念に行うことを心がける。加えて、他の研究者や現地スタッフの方々とも相談、連携して研究遂行にあたるようにしたい。 上記のことを踏まえながら、基本的には交付申請書の実施計画に沿って調査、研究を進めていく所存である。
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次年度使用額が生じた理由 |
交付申請書には初年度にも国外調査の計画を入れていたのだが、国内の資料収集と調査に想定以上の時間がかかり、国外調査の時間確保ができなかったため。今年度は反省を踏まえ、しっかりと国外調査の時間確保に努めたい。
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備考 |
(その他の業績)歴史科学協議会編『知っておきたい歴史の新常識』勉誠出版(2017)に「女性の国際移動と性ーー「からゆきさん」が生み出された背景」執筆(174-177頁)
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