本課題は、「からゆきさん」と総称される、幕末の開国より海外で性売買に従事していた女性たちについて、性売買だけでなく移動先での人々や社会との関わりを調査・検討することによって、彼女たちの生涯の経験を捉え直そうとしたものである。 全体的にCovid-19の流行に伴い予定していた海外出張が中止になり、海外での資料収集や調査が捗らず、また同様の理由で国内のインタビューにも慎重にならざるをえなかったが、できるかぎりの資料収集、インタビューや音声資料の文字起こしに注力した。 申請書の計画ではシンガポールやマレーシアの調査を実施する予定だったが、上記理由によりできなかったため、国内調査の一環で尼港事件における「からゆきさん」と殉難碑の関係を調査し、国際学会で報告し、その後論文として発表した。 研究期間全体をとおして、「からゆきさん」は現地で多様な人々とのネットワークを築いており、これまで性売買の経験のみに注目される傾向が強かった「からゆきさん」の娼館を出た後の経験も含めて今後は考察を深めていく必要があることが明らかになった。
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