研究実績の概要 |
平成29年度の研究は、パリ音楽院ピアノ科で行われた定期試験(1890~1956)の曲目一覧化作業のうち、1890年から1912年までの期間について、データ入力を行った。ジャンルが同定された曲数は延べ5495件、作曲家が同定された曲目数は延べ5445件である。 10年ごとのデータ数は次の通り(以下件数はすべて延べ)。a)1890年1月~1899年6月=ジャンル:2696件、作曲家=2557件。b)1900年1月~1909年6月=ジャンル:2102件、作曲家:2060件(*G.フォーレの院長就任[1906年]を機に、定期試験が年に2回から1回になった)。続く10年は、入力を終えた1910年6月から1912年6月に限ってみると、c)ジャンル:529件、466件である。 上の10年毎の期間につき、ジャンル、作曲家の傾向を分析した。ジャンルについては、27項目を設けて分類した。a,b,c期の特徴的な作曲ジャンルは件数の多い順に、ソナタ、協奏曲で、1870年代から変化していない。練習曲、フーガの割合が大きいことも従来の傾向と同じであるが、他方、少数ながら、それまでにはなかった新しいジャンル、交響詩が導入されたことはレパートリー刷新への努力と見られる。 作曲家に関しては、実数にして107名が特定された。a,b,cの各期間を通して、多いのは1810年代生まれのショパン、シューマン、リストで、彼らの作品がレパートリーとして定着していたことを示す。フランスの作曲家を重視する傾向は、この3期間で次第に強まっている。a)では7.4%、B)では10.8%、C)では12.3%。この増加の主因は、フォーレの院長就任後、彼の作品が取り上げられるようになったためである。本研究の主眼である「フランス的」規範の成立という観点に照らすなら、フォーレ作品の受容に端を発していることが明らかとなった点が重要である。
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