研究課題/領域番号 |
17K13374
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
田中 晋平 日本大学, 芸術学部, 研究員 (90612870)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 自主上映 / 自主映画 / 1970年代 / 映画館 / 実験映画 / 個人映画 / ドキュメンタリー映画 |
研究実績の概要 |
板倉史明編『神戸と映画 映画館と観客の記憶』(神戸新聞出版総合センター)第7章に「〈グループ無国籍〉の自主上映と一九七〇年代の新開地」を掲載した。本稿では、映画監督の大森一樹や漫画評論家として著名な村上知彦らも参加していた〈グループ無国籍〉が、神戸・新開地の傍にある福原国際東映という映画館でオールナイトの上映会を開催し、その都市と文化状況に根差した上映活動を展開した経緯を考察した。 シネアスト・オーガニゼーション大阪主催のイベント「自主映画アーカイブ上映」で開催された高岡茂、植岡喜晴の自主映画の特集上映において、研究代表者が聞き手となりそれぞれの映画作家から、当時の作品がどのような空間で上映され、反響を得たかなどを公開の場で伺った。 また2018年度から研究代表者は、国立国際美術館客員研究員として、同館で開催する上映会「中之島映像劇場」の企画を担当している。11月に関西の実験映画・個人映画作家たちのグループであり、13年にわたって京都・大阪・神戸の三都市で、自主上映活動を続けてきた、〈ヴォワイアン・シネマテーク〉の特集上映を開催した。同企画では、作品上映のみならず、美術家・今井祝雄氏の視点による70年代以降の映像表現や上映をめぐる講演も行ってもらった。同グループの上映活動に焦点を合わせたシンポジウムも実施し、配布資料として〈ヴォワイアン・シネマテーク〉の全上映作品と上映空間のリストを作成した。 3月の中之島映像劇場では、岩波映画製作所出身で1960-70年代に特異なドキュメンタリー映画を発表した岩佐寿弥監督の特集「回想の岩佐寿弥」も開催した。その映画の調査の中で、当時シネトラクト=アジビラ映画として製作された《叛軍》シリーズ(1970-1972年)がどのように各地で上映され、観客から反響が寄せられたか、岩佐たちが発行した「叛軍通信」などの資料から把握することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
神戸・新開地周辺で活動した自主上映グループについての研究を出版物として公表できた点、さらに自主映画アーカイブ上映や中之島映像劇場の企画内で、1960年代末以降のドキュメンタリー映画や実験映画・個人映画の上映活動に焦点を合わせ、シンポジウムなど開催できた点、大きな成果と捉えている。また、2018年度から研究代表者は、川崎市市民ミュージアムと「小川プロダクション関連ノンフィルム資料共同研究」を進めており、同ミュージアムが所蔵する小川プロダクション資料の調査を進めてきた。特に1960-70年代の同プロダクションによる自主上映に関連する資料(「小川プロニュース」など)を精読できたことで、その上映運動の展開と各地域の上映グループらの情報も得られた。また、当初の研究計画に記していた、情報誌などの情報に基づき、1970年代に首都圏や関西圏で活動していた上映グループをリスト化していく作業も予定通り進めており、地域間における上映活動の比較検討など進められる段階にある。 ただ、2018度は上映会などの催しを通じて、自主上映グループのメンバーや映画作家たちからも上映に関する多数の証言を予想外に得られたのだが、それらを研究成果として公表するための作業時間を、十分確保できなかった。また当初予定していた〈シネマテーク・ジャポネーズ〉の研究に関しては、初期の『映画新聞』をはじめとする関連媒体などを入手できたものの、インタビューによる調査は一部のみしか進められなかった。
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今後の研究の推進方策 |
【現在までの進捗状況】で記したように、〈シネマテーク・ジャポネーズ〉の自主配給・上映をめぐる活動とその後のミニシアターなどを開設する歴史について継続して調査を行っていきたい。また2018年度から川崎市市民ミュージアムとの共同研究として進めている、小川プロダクションの上映活動に焦点を合わせた調査も引き続き進めていく。特に同館には、いわゆる「三里塚シリーズ」以前の時代の小川紳介の映画を配給・上映してきた〈自主上映組織の会〉(=自映組)の活動や『どっこい!人間節 寿・自由労働者の街』などの上映活動に関連する資料が数多く所蔵されていることを確認済みである。それらのノンフィルム資料の調査を継続していく中で、小川プロが日本全国でどのような上映活動を展開し、また各地の上映グループなどの協力を得ていたのかを探る予定である。その研究成果は、2019年度内に日本映像学会などでの研究発表や論文執筆、資料展示などを通じて公表できるよう努める。 また、2017年度、2018年度に実施した映画作家や上映グループのメンバーの方々への聞き取り、および入手することができた自主上映関連の一時資料などのうちで、いまだ研究発表や論文などに活用できていないものもあり、最終的には、これらの成果をまとめ、書籍としても公表できるよう準備を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していたインタビュー調査などに必要となる謝金が発生しなかったため。2019年度はこれまで実施できなかった自主上映グループのメンバーの方々への聞き取りを進めていけるように努めていく。
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