研究課題/領域番号 |
17K13401
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
大石 真由香 奈良女子大学, 人間文化研究科, 博士研究員 (40624060)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 万葉集 / 禁裏御本 / 寂印成俊本 / 中院本 / 古活字本 / 陽明文庫 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、『万葉集』の活字化への道筋と国学成立の過程を探るため、近世初期における『万葉集』の書写・利用の様相を明らかにし、近世初期という一時代の『万葉集』受容のありようを総合的に捉えることにある。 研究代表者はこれまでに、北村季吟、藤原惺窩両者の『万葉集』研究に焦点をあて、近世初期の地下歌壇における『万葉集』受容のありようについて研究してきた。一方、中世末期から近世初期の堂上においては、仙覚文永十年本のうち寂印成俊本と呼ばれる系統の写本が数多く書写されていた。中でも、寂印成俊本に禁裏御本の本文・訓を校合し、諸本の集大成となった中院本系統本は、中世末期から近世初期の堂上歌壇における『万葉集』受容の様相が知られるのみならず、「幻の本」とされる禁裏御本からの書入箇所を検討することにより、仙覚文永本成立以前の『万葉集』のかたちを理解することにも繋がる重要な本である。本研究は、寂印成俊本の系統関係を見直し、禁裏御本のすがたを復元するため、禁裏御本書入本の調査・検討を行うことを軸とするものである。 この研究の中心となるのは、(1)陽明文庫所蔵「古活字本万葉集」10冊20巻の紫書入(禁裏御本書入)についての全巻調査である。これは研究代表者が陽明文庫に通い、継続的に行ってきたものであり、現在は一通りの調査を終え、データ化と確認作業を行っている。また、当該年度中に、禁裏御本書入本である(2)伝空性法親王筆本(尊経閣文庫所蔵)、(3)尊経閣文庫仙覚本、(4)野宮定基筆本(石川武美記念図書館所蔵)の原本調査を行った。さらに、新たに(5)京都大学国語国文学研究室本『万葉集』(零本7冊)のうち、巻二、三の2巻が禁裏御本書入本であることを発見し、研究対象として加え、調査を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
月に一度陽明文庫に通い、「古活字本万葉集」禁裏御本書入の確認作業を行った。作業は完了までは行かなかったものの、大学院生を謝金で雇いあげ、『校本万葉集』を用いた『万葉集』20巻分の禁裏御本書入の調査・データ化を完了することができた。このため、陽明文庫所蔵「古活字本万葉集」の禁裏御本書入の調査結果を順次このデータに加えてゆくことで、確認作業の効率は今後上がることが見込まれる。禁裏御本について検討するための基礎は出来たと考えている。 また、尊経閣文庫、石川武美記念図書館において重要な禁裏御本書入本の原本調査を行い、さらに京都大学国語国文学研究室本『万葉集』巻二、三の複写物を得ることができた。今後、『万葉集』写本の系統研究を進めるための環境を整えることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度のうちに、陽明文庫所蔵「古活字本万葉集」禁裏御本書入の確認作業とデータ化の完了を目指す。また、京都大学国語国文学研究室本『万葉集』巻二、三については、平成30年5月27日に上代文学会大会にて口頭発表を行う予定である。 今後、さらに多くの近世期の禁裏御本書入本を原本調査し、現存しない禁裏御本のすがたを高い精度で復元することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
大学院生の雇いあげにかかる人件費が予定より少なく済んだこと、また、研究の必要上、書籍の購入額を増やし、宿泊を伴う出張の回数を減らしたことによって差額が生じた。 平成30年度に奈良女子大学から岐阜聖徳学園大学に転出したことにより研究環境が変化したため、この差額は新たな書籍購入に充てる。
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