最終年度の主な活動としては,甑島里方言の辞書作成のためのフィールドワーク2回である。フィールドワークは2019年7月,2020年2月に2日間かけて行い,それぞれ約100語の語彙収集を行うとともに,2回目のフィールドワークでは,静音環境で高音質の音声収録を行うため,3年間の研究期間で収録した約900語すべての再録を行った。また,2019年7月には語彙収集を通じて得られた形式をターゲットとした論文「甑島里方言のbasi」を,『阪大社会言語学研究ノート』第16号において公開した。 3年間の研究期間全体を通じ,例文・音声付きの甑島里方言の語彙を約900語を収集した。研究者ではない,話者の手による当該方言の語彙集はこれまでも数点刊行されているが,研究者が基礎語彙を中心に,例文・音声付きで収集した初めての辞書ということになる。この辞書は広く一般にも公開できるよう,国立国語研究所の危機言語データベース(http://kikigengo.ninjal.ac.jp/index.html)においてアップロードされる予定である。本来であれば2020年4月頃の公開を予定していたが,新型コロナウイルスの影響により,2020年5月現在においてもまだこの作業が滞っている。さらに,このウェブサイトにおいて甑島里方言のテキストも公開する予定である。同データベースは日琉諸語の辞書およびテキストを掲載しているが,そのほとんどが琉球語諸方言のものであり,日本語方言としてはまだ八丈方言のものしかない。本研究を通じて作成された辞書・テキストが追加されることによって,日本語方言としては貴重な一例となり,比較言語学的な観点からも,辞書のアーカイブ化という観点からも,その貢献度は大きいと考える。また,2年目には方言辞書研究会を2回開催し,本研究の研究計画にある「全国諸方言の方言辞書作成を活性化させる」という目的を達成すべく研究活動を行った。
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