本研究の目的は,日本人英語学習者が「コンテクストの中で使える語彙知識」を習得するのに求められる学習量と質(言語インプットの量と質)を,言語統計解析モデルの一つである潜在意味解析により推定することであった。特に中学・高等学校で使用される英語検定教科書等をインプットとした場合の語彙知識の発達過程をシミュレートすることで,英語語彙学習・指導に求められるインプット環境の最適化を図った。具体的には,潜在意味解析によりインプットに基づく単語の知識モデルを構築し,日本人英語学習者の語彙習得過程との比較シミュレーションを行った。
平成31年度(令和元年度)は,実験研究・介入研究を通して,最適化されたインプット環境における語彙指導の効果を検証した。実験研究では,知識モデルが推定した最適な質を持つインプットを最適量与えた実験群と統制群の語彙学習の成果を比較した。介入研究では目標語の学習機会とどのような文脈で学習する機会があったのかを要因とした多読プログラムを実施し,教育的介入による語彙学習の効果がどの程度あるのかを調査した。
研究期間全体を通じで実施した研究の成果として,①外国語としての英語語彙知識の発達に潜在意味解析によるシミュレーションが適用できること,②最適なインプット環境による語彙学習が,文脈を考慮しない語彙学習よりもコンテクストの中で使える語彙知識の習得に効果的であることを明らかにした。また,今後の研究として,語彙学習の成果をシミュレーションするためには学習者の個人差要因を考慮しなければならないことが示唆された。これらの成果から,本研究は将来的に,外国語としての英語学習に最適な学習量と学習の質を推定するための基礎データを提供できることが期待される。
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