今年度これまでは,昨年度に続き脳波を用いた英語能力評価に関する研究を行ってきた。英語での会話やスピーチを聞いている際の脳波を計測し,一般線形モデルを用いてその脳波から会話やスピーチが含む単語や音素などの様々な要素に対する反応を抽出することに成功した。昨年度の実験で得られた日本語母語話者約200名,英語母語話者約30名からの脳波を音素や単語を細かく分類し,それぞれに対する反応を検討した。その結果,単語に対する脳波の反応が英語能力が高いほど早くなっていることがより精緻に明らかになった。 また,外国語習得には母語力が重要とも言われているが,神経科学的な裏付けは進んでいない。そこで,脳波を神経科学的な指標として用い,英語リスニング時の脳波応答N400と母語力との関係を明らかにすることを目的とした実験を行った。英語名詞に対するN400の潜時は,英語のスコアと母語の語彙力と,有意な負の相関が見られた。さらに,英語のスコアと母語の語彙力の間に強い正の相関が見られたことから,英語スコアの影響を除いた英語名詞に対するN400潜時と母語の語彙力との関係を調べたところ,有意な負の相関が認められた。N400は意味記憶を反映する成分であることから,本研究の結果は,母語の語彙力が高いほど,学習中の言語に対しても意味記憶へのアクセスが早いことを示唆している。 脳波の種々の反応から英語能力を予測するための統計的モデルを作成した。このモデルにより脳波データからその個人の英語能力をかなりの精度で予測できることが可能となった。これより先の実験と解析によってより簡略に計測と解析が行われ,実用化されることが期待されている。
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