本研究は、戦前日本の司法において中枢を担った大審院での判決に対し、単にそれを「請け売り」する存在であると位置付けられがちであった“帝国”日本の外地の裁判所において、実際には現地の法的・社会的要請に応じて、場合によって大審院とは異なる司法判断が下されていたことに注目し、このような特徴をもつ外地裁判所(本研究課題では特に朝鮮高等法院に注目する)の司法判断の集積・分析を手がかりに、“帝国”日本という枠組みにおける司法秩序の形成過程を明らかにしようとするものである。 この問いを明らかにするため、本研究では①内地(本国)と外地で同一法規を用いる場合であって、かつどのような事案で朝鮮高等法院が大審院とは異なる判断を下していたか、またそうした判断を可能にした形式的・実質的条件とは何だったのか、②“帝国”における司法(判例)統一をめぐり、在本国・在朝鮮の法律実務家や法学者たちがどのような反応を示していたか、③上記の①②といった一連の事象により、本国の司法がどのような影響を受けたのか、という3つの論点を中心に分析を進めた。 22年度は、19年度末から21年度にかけて新型コロナウイルス感染症の流行により事実上実施困難となっていた国内出張・海外渡航が再開可能になったことに伴い、本研究課題の本来の最終年度(2019年度)に予定していた補足調査を実施した。本課題が射程としてきた外地朝鮮の法規適用や司法行政のあり方等について、これまで主として日本・朝鮮半島に所在する統治期の同時代的資料を中心に分析を行ってきたが、本年度の補足調査を通じて、1945年以降の朝鮮半島、特に38度以南のアメリカ軍政下における対応過程(その過程での統治期司法に対する反応)から分析する観点も不可欠であることを認識した。この点は日本では従来顧みられてこなかった観点であると考えられ、今後の研究成果の公開において反映してゆきたい。
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