これまで本研究では、WTO補助金協定の問題点の分析、EUが締結してきた自由貿易協定(FTA)における補助金規律の展開、伝統的な補助金規律とEU法型の国家援助規制の調査、グリーン補助金の概念の再導入の可能性と公共サービス概念の展開、米国のFTAにおける補助金規律について分析してきた。本年度はそれらに加えて、サービス貿易における補助金規律の導入状況について分析した。サービス貿易に関する補助金は、WTOの「サービスに関する一般協定」(GATS)においては実体規定が設けられていないが、それを補完する形で、FTAにおいて規律が形成される傾向がみられる。しかし、実際の規制アプローチは多様であり、GATS同様に実体規定を設けない場合から、物の貿易における補助金規律をそのままサービス貿易にまで拡張する場合、そして、国家援助規律や競争法の適用を求める場合にまで幅がみられる。とりわけ、国家援助規律や競争法の適用は、EUが締結したFTAに顕著である。他方で、米国や日本が締結しているFTAにおいては、物の貿易における補助金規律をサービス貿易にまで拡張する傾向がみられるため、これらの国々の間では規制アプローチに収斂がみられない。もっとも、米国等が締結するFTAにおいては、国有企業規制における「商業的考慮」の概念などを通じて、規制手法が近接していく可能性があり、今後の展開が注視される。 これらの研究成果は、『フィナンシャル・レビュー』第140号に掲載することができた。そして、現在はその成果を英訳しており、邦語論文から日米欧貿易大臣会合などの成果を踏まえて分析をさらに発展させている。その成果は2020年度中には公表できる段階に来ている。
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