本年度は、景気循環分析で重要となる景況感すなわち景気への期待に関する統計情報を用いて、それらから日本経済の近年の状態を明らかにするという実証分析を行った。 景況感の抽出には、日本銀行が実施する全国企業短期経済観測調査(以下、日銀短観)の業況調査アンケートをデータとして用いた。こうしたアンケート調査に対する分析は、カールソン・パーキン法が主に用いられてきたが、本研究では状態空間モデルを応用することで、景気への期待に関して時間的構造も捉えることを可能とした。さらに、近年、全体の景況感を表す回帰式の誤差項の分散を時間に通じて、可変化させることで、2009年の金融危機など企業家たちが予想外であった事象に対して、どれだけ回答のブレが大きかったかを数量的に測れるように拡張を行った。これらのモデルを用いて実証分析を行った結果、リーマン・ショックと言われる金融危機においては誤差の分散が急上昇したが、2010年以降は大きな上昇が見られないことを示すことが出来た。また、モデルから推定された景況感より、2011年以降は低いながらもプラス方向で推移していることも示した。これより、戦後最長の景気拡大期とされる現在の日本経済は、企業側から推定される景況感からみると、弱含みであるが好調に推移していることが明らかになった。 これらの研究については、2019年統計関連学会連合大会にて報告を行い、現在は新型コロナウイルス感染拡大の影響も加味し、研究を進めている。
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