本年度における具体的な研究成果としてはまず、地球環境問題の解決に対してHRMがいかなる役割を果たすかという問題意識のもと、環境HRM(Green Human Resource Management:GHRM)という新しい概念についてのレビュー論文を拙稿(2019a)「環境問題と人的資源管理」『経営問題』第11号、所収論文として公刊した。このなかでは、地球環境問題の解決に対して、企業における人的資源管理がどのように貢献しうるかについて、GHRM概念を手がかりに議論を進めた。環境問題に対する取り組みが世界的な規模で進められるなか、環境に配慮した経営すなわち環境経営に努めることを企業は要求されるようになってきた。その一方で、人的資源管理職能が環境経営に果たす役割は、実務界および学界の双方で明確にされてこなかった。そこで、この領域における研究上の行き詰まりを打破すべく、当該領域をリードする論者であるRenwick(2018)を批判的に検討しつつ、新たに本研究独自の分析枠組を構築した。同氏の論考のみにとらわれず、GHRMの独立変数および従属変数について広く考察した。結論として、「人的資源管理諸制度が環境戦略に適合した制度設計原理に基づいて設計され、運用されるとき、従業員による環境保護行動を促進し、それが個人・組織双方の環境パフォーマンスを向上させ、ひいては環境上の持続可能性確保をもたらすこと」を示した。そして、実際の企業における事例の分析も行い、在阪中堅企業T社の事例分析を実施した。この事例についてはケースブックである拙稿(2019b)『グリーンビジネスが暮らしを変える』good booksを公刊した。企業とマンション管理組合が協働して分譲マンションの植栽管理・開発に取り組んだ事例であり、顧客も巻き込みながらGHRMを実践する興味深い事例である。
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