本研究では最終的に,日本で生じた事故・不祥事について記者会見に臨む経営者の「表情」のどのような違いが,その後の正統性の修復に対して如何なる影響を及ぼすのかを,比較事例研究の方法を通じて解明した.ここに至る一連の研究成果は2つの査読付き学術誌(『組織科学』・『一橋商学論叢』)に掲載が決定した.企業の危機対応に対する一般的関心は高く具体的な知見が求められていることから,本研究の成果には一定の実践的意義があると思われる. 組織の正統性修復戦略に関する既存研究は,経営者が発する「言語内容」を戦略行為として捉え,それに対する利害関係者の評価・反応に焦点を当ててきた.本研究も当初は言語内容とそれに対する評価に着目していた.分析枠組みを精緻化するために行った初期の理論的研究の成果は,『一橋商学論叢』に査読付き研究ノートとして発表した.だがその後に事例(2014年7月に発覚した上海福喜食品期限切れ食肉事件に関する日本マクドナルドホールディングス株式会社とユニー・ファミリーマートホールディングス株式会社の対応と,それに対する利害関係者の反応・評価)分析を進めたところ,言語内容の違いに着目した視点では事例で生じた現象をうまく説明できない状況に直面した.そこで現象側に立って枠組みの見直しを進めたところ,経営者の言語ではなく非言語要素(特に経営者の表情)の違いに着目することで,現象を上手く説明できる可能性に気が付いた.そこから非言語コミュニケーション論の文献を読み込み,枠組みの見直しを進め,言語内容の質的比較と表情の印象評定の量的比較を行う複合的な比較分析方法を開発した.その方法によって上記の事例を分析した研究成果は,査読付き学術論文として『組織科学』に掲載されることが決定した.
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