研究課題/領域番号 |
17K13841
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
定池 祐季 東北大学, 災害科学国際研究所, 助教 (40587424)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 災害文化 / 災害伝承 / 語り継ぎ / 新聞報道 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、前年度に継続して①災害文化をめぐる概念の整理のための文献研究と②災害文化の形成・継承・変質過程に関する事例調査を行った。①では社会学・人類学・民俗学等の文献を通して災害伝承や記録、記憶など、災害文化に関わる概念の整理を進めた。②については、災害因や常襲性、被災状況などを考慮した上で復興プロセスにおける災害文化の形成・継承・変質状況について整理をするための手がかりとして、津波被災地の調査を重点的に行った。具体的には北海道南西沖地震(1993年)の被災地である奥尻島、八重山津波(1771年)の伝承が残る石垣島と宮古島で民俗学者とフィールドワークを実施したほか、北海道新聞、河北新報、石垣島の地元紙を対象とした新聞調査を行い、災害そのものの報道や、追悼・語り継ぎに関する報道の変遷をたどった。そして、次年度に実施するフィールドワークと総合考察に資する知見を得た。 平成30年度の研究成果は、地域安全学会、東北民俗の会、で奥尻島の災害伝承、特に語り部と語り継ぎに関する発表を行い、第42回(2018年)地域安全学会研究発表会(春季)優秀発表賞を受賞した。また、日本自然災害学会、日本災害復興学会、日本災害情報学会北海道南西沖地震に関わる新聞報道の変遷について、内容分析の結果を報告した。それ以外に、防災担当者向け研修や一般市民向けの講演、新聞・学会ニュースレター、雑誌などへの寄稿を通して災害伝承や語り継ぎ、教訓の継承に関する内容を扱い、社会への発信を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成30年度は、前年度に継続して①文献研究と②災害文化の形成・継承・変質過程に関する事例調査に加え、①②をふまえて③個々の災害事例についての災害文化の変遷の整理に取りかかる予定であった。このうち、①②はある程度達成できたものの、③に取りかかるまでに至らなかった。 ①は場所と時間を選ばないのに対し、②は特定の行事で参与観察等を行うものも含まれている。その中では、2018年4~7月の間に石垣島、宮古島における八重山津波に関する追悼行事や津波に関わる祭祀の調査を行い、奥尻島での追悼や伝承に関わる調査を実施した。その成果の一部は地域安全学会や東北民俗の会で発表することができた。 しかし、2018年9月6日に発生した胆振東部地震発災以降は、災害前から関わりを持っていた厚真町への長期にわたり災害対応・被災者支援に携わることとなった。そのため、2018年度後半に計画していたフィールドワークについては、大幅に予定を変更することになった。その代わり、年度初めより取り組んでいたデータベース等を活用した新聞報道の内容分析に力点を置くことにした。その成果の一部は、日本自然災害学会、日本災害復興学会、日本災害情報学会で発表を行った。 ③の個々の事例の整理については、フィールドワークと新聞分析からある程度まとまりつつあるものの、不十分な状況であり、次年度も継続する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、①文献研究と②災害文化の形成・継承・変質過程に関する事例調査のうち、①を継続しながら、平成30年度に予定通り実施することのできなかった②のフィールドワークを実施する。その上で、③個々の災害事例についての災害文化の変遷の整理や④総合考察を行う。②のフィールドワークについては、津波以外のハザードを対象としており、メモリアル行事等に合わせた調査を行う。また、③④に際してで①や②の予備調査を行う可能性もある。 平成31年度は、前年度の遅れを取り戻しつつ、ハザードに起因する災害事例の比較研究を通して、災害文化の形成・継承・変質過程に影響を与える要素を抽出し類型化を進め、災害文化に関する理論的考察を深めることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新聞分析のために契約したデータベースの支払いが、使用月の翌月になるため、データベース使用料分を次年度使用分とした。また、2018年度後半に予定していた現地調査を実施することができなかったため、その分は今年度の調査費用として使用する予定である。
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