研究課題/領域番号 |
17K13850
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
眞住 優助 金沢大学, GS教育系, 講師 (50747582)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 留学生 / 労働市場への編入 / 就職 |
研究実績の概要 |
2019年度における研究実績はおもに次の4つである。第1に、最新のデータにもとづいて、日本の高等教育機関を卒業した外国人留学生の卒業後の進路傾向を国籍別に調査した。留学生の進路に関する最も包括的な統計が、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)が毎年行う「外国人留学生進路状況調査結果」であり、報告者は本プロジェクト遂行のため、同調査結果の国籍別集計データの提供を受けている。2019年度は、同年度において最新データの2017年度の調査結果のデータ提供を受けて、留学生の進路に関する国籍間比較を行うとともに、同一国籍内での進路傾向の時系列推移を考察した。第2に、昨年度から継続して、留学生に対するインタビュー調査を実施した。本年度は、2019年度に卒業を見込み、卒業後に日本での就職が内定している留学生を重点的にカバーした。それによって、日本での就職を決意して内定にいたる経緯を詳細に調査するとともに、就職後の具体的な就労状況および今後の予定するキャリアに関する聞き取りを実施した。第3に、日本の留学を終えて、すでに母国に帰国した留学生のキャリアを把握するため、8月にネパールにおいて元留学生にたいするインタビューを行った。調査協力に応じた帰国者8名に対して、帰国の経緯をとともに現在の就労状況ならびに再来日の可能性を含めた今後の予定に関する聞き取りを行った。これら協力者のなかには、昨年度のインタビュー対象者も含まれており、その時系列的なキャリアの変遷を考察した。第4に、ネパールの日本語学校関係者に対する聞き取りを行った。過去1年間の留学生の送り出し状況を尋ねるとともに、2019年4月の日本政府による在留資格「特定技能」の新設に鑑みて、関係者らが今後予定する人材送り出し戦略を調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで、研究はおおむね順調に進行している。本調査は、留学生の卒業後のキャリアについて、留学生を東アジア出身者と、過去10年のあいだその増加が著しい南・東南アジア出身者に分類した上で、主として2つの観点から研究調査を継続的に実施している。具体期には(1)統計データにもとづいて進路傾向の比較分析を実施するとともに、(2)留学生・元留学生に対するインタビューに依拠しつつ、具体的な労働市場への参入様式の解明を行っている。第1の課題について、先述のとおりJASSOから入手した国籍別進路データを用いて、最新年度の動態を踏まえた分析を実施した。今年度の分析においては、東アジア出身の留学生にくらべて、南・東南アジア人留学生の日本での就職者の割合が過去4年のあいだ、急速に上昇していることを明らかにした。この結果によって、近年の留学生のキャリアの把握には、国籍間比較だけでなく、同一国籍内における時系列変化に着目して、それを促す要因を検討する必要性があることが明確となった。また、第2の課題について、2019年度は、インタビュー対象者の選定のさい、昨年度以上に留学生の多様な属性に着目して、より多様な留学およびキャリア経験の把握に努めた。とくに日本語能力に関する試験において上位の資格を保有し、かつ同年度卒業を見込んでいる留学生を重点的にリクルートして、それによって、これまで主たる対象であった、日本語能力がより限定的な留学生との比較を目指した。まだ暫定的な結果に留まるものの、これまでの調査においては、両者のあいだには学校からのサポート、就活の方法および予定就業職種に就いて大きな差異が存在することが示された。また、直接の研究対象ではないが、高等教育機関における留学生の就職担当者や日本語学校の関係者に対する聞きとりを通して、留学生の進路に関する最新の問題状況の把握を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
調査の最終年度である2020年度では、以下の3点に焦点を当てた調査を実施する。第1に、統計的観点にもとづく国籍別留学生の進路パターンの把握を継続的に行う。2017年度の結果によれば、南・東南アジア人学生の日本での就職者の割合は、経年的な上昇の結果、中国人学生のそれと大差のない水準に達している。2018年度においてもこの上昇傾向が継続するのかに着目する。第2に、留学生を対象とするインタビューについて、これまでの調査では、日本で就労する元留学生のみならず、東・東南アジア人学生を中心に現役の学生に対して、留学中の学修・就労経験ならびに卒業後のキャリア予定の聞き取りを行ってきた。こうした留学生のうち、2020年度に卒業を予定し、なおかつ日本での就職を予定する者に対して、集中的なフォローアップの聞き取り調査を実施する。その際、次の2つの問題に着目する。第1に、すでに統計的に把握している留学生の就職割合の増加に鑑みて、現在、就職を促進させる制度的な支援にはどのようなものが存在しており、また、留学生はどのようにそれを用いるのかを考察する。第2に、新たに検討すべき課題として、2020年の新型コロナウィルスの問題が、留学生の就職活動、就職状況ならびに将来的なキャリア目標に対してどのような影響を与えているのかを調査する。第3に、すでに日本において就職し、就職後1~2年が経過した元留学生に対しても、フォローアップのインタビューを実施する。その際、就職企業、就労条件ならびに就業職種の変化の有無を確認するとともに、実際の就労経験が、対象者に対して、将来のキャリアの見込みに対してどのような影響を与えているのかを考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
必要経費の一部を勤務校から支給される研究費によって負担したため、次年度使用額が生じた。関連文献やプリンターのトナーなど消耗品の購入のほか、フィールド調査の実施にかかる経費として使用する。
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