研究課題
本研究は、学士課程教育の一環としての4年次教育の学びのプロセスを解明し、数少ない4年次教育の学習研究の蓄積に寄与することを目指すものである。大学教育の集大成とされる4年次教育はどのような意味で「集大成」なのか、その内実を学生の学びのプロセスに着目し、検討していく。本研究の4年次教育における学びプロセスの検討とは、(1)4年次教育における教授・学習環境を下支えする学習メカニズムの横断的検討、(2)初年次から4年次に至る学びの軌跡を明らかにする縦断的検討、(3)4年次教育における学びのプロセスを体系的に理解するための理論的検討を指す。上述の課題(1)はすでに完了していたため、前年度は特に課題(3)に注力し、学士課程教育の一環としての4年次教育の学びのプロセスを記述するのための具体的方法について検討した。その成果は大学教育学会誌「質的研究を考える―学生、教員、職員の学びと成長を捉える学習研究の手法として―」(共著)にまとめた。そこでは、高等教育研究において議論されている「学習成果における教育の質の保証」という枠組みからでは4年次の学生の学びのプロセスとその多様性を十分に救い上げられない点を指摘し、細かく適切に調整された概念的フレームが必要となることを論じた。その上で、4年次教育における学びプロセスとして「学びのカリキュラム」という視点から学生の学びの生態を捉える社会文化的アプローチが有効となることを指摘した。この議論の過程で、社会文化的アプローチの精緻化、及びその高等教育研究への適用可能性についての議論が新たな研究課題として見出された。
2: おおむね順調に進展している
課題(2)の初年次から4年次に至る学びの軌跡を明らかにする縦断的検討については、未着手となってしまった。年度末予定していた、調査対象学生4名への気聞き取りがコロナ禍の影響により実現困難となってしまったことが主な理由である。ただしインタビューの準備も終えており、次年度末までには成果としてまとめられる見込みであることから、「おおむね順調に進展している」と判断した。
既述のようにインタビュー対象となった学生への聞き取りが困難となってしまったが、その方策として今後、インタビュー時期を7月から8月にずらし、回顧型インタビューを行う、あるいは非対面式のインタビューで代替する、という処置でその遅れを補っていく。また前期のうちにこれまでの成果を学会誌にまとめる。さらに研究計画に特に大きな変更はないものの、重要な研究課題として、社会文化的アプローチの精緻化、及びその高等教育研究への適用可能性についての議論が新たな課題として浮き彫りとなったので、これらを上述の課題(3)の理論研究に位置づけて継続する。
予定していたインタビュー調査を繰り下げたことに伴い、インタビューデータの文字起こしにかかるアルバイトへの謝金を次年度に繰り越す必要が生じたため。これは次年度、当初予定していた使途と同様のかたちで運用予定である。
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大学教育学会誌
巻: 41(2) ページ: 57-61
Asian Association of Open Universities Journal
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10.1108/AAOUJ-06-2019-0024
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