研究課題
Sr2RuO4はp波のスピン三重項超伝導体と考えられているが、超伝導のメカニズムについては発見から20年以上経過した現在でも議論が続いている。その最大の要因は、スピン三重項超伝導で予想される強磁性揺らぎの動的構造因子及びその温度変化が中性子散乱実験で明らかにされていない事である。一方、申請者はこの系に対して既に行った中性子散乱実験において、強磁性揺らぎの兆候を捉えている。中性子散乱を用いてSr2RuO4における磁気揺らぎの動的構造因子の波数・エネルギー・温度・ドープ量依存性等を定量的に評価する事が本研究の目的である。磁気揺らぎの動的構造因子を実験的に決定する事ができれば、これまでSr2RuO4系について数多く行われてきた理論・数値計算と比較することが可能となる。これは、どの理論が正しいのかを実験的に判別するために必要不可欠である。さらに近年、Sr2RuO4はトポロジカル超伝導の観点からも盛んに研究されており、超伝導のメカニズムが完全に理解されれば量子計算等の応用研究への発展も期待される。平成29年度は当初の計画通り、中性子非弾性散乱実験用の単結晶試料合成、中性子非弾性散乱用の試料ホルダーの作成を行った。さらに、J-PARC物質・生命科学実験施設に設置されているAMATERASに対して課題申請を行い、非弾性散乱実験のビームタイムを取得した。また、実験結果の解釈のために理論家との共同研究も行っており、磁気揺らぎの動的構造因子の数値計算も並行して実施している。また平成29年6月に京都大学基礎物理学研究所研究会において、「中性子非弾性散乱によるSr2RuO4の磁気揺らぎ」というタイトルで口頭発表を行った。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度中に中性子非弾性散乱測定を行う予定であったが、実際の実験は平成30年6月に予定されておりやや遅れている。実験の準備はおおむね順調である。また、当初は予定していなかった、理論計算を並行して実施している。以上より、研究全体としては順調に推移している。
平成30年6月に中性子非弾性散乱測定を実施する。さらに数値計算と比較することで、Sr2RuO4の超伝導の起源を議論し、論文として発表する予定である。また、成果は日本物理学会や国際会議などでも発表する予定である。
平成29年度は旅費を使用したかったので、若干の余剰金が発生した。その分は平成30年度に旅費として使用する予定である。
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Journal of the Physical Society of Japan
巻: 86 ページ: 064803
https://doi.org/10.7566/JPSJ.86.064803
巻: 86 ページ: 093703
https://doi.org/10.7566/JPSJ.86.093703