研究実績の概要 |
低塩分濃度水攻法の油増進メカニズム解明に向けて、貯留岩コアを用いた掃攻試験を実施し、低塩分濃度水中の塩分濃度やイオン成分が貯留岩の表面状態または貯留層特性に及ぼす影響を明らかにする。平成30年度は、模擬貯留層として貯留岩に砂岩と炭酸塩岩を用いて、水相にNaCl水溶液(30,000ppm程度)、油相にn-デカンを使用し、温度60°C下において低塩分濃度水による油掃攻試験を実施した。平成29年度の結果を基に、油掃攻試験用の低塩分濃度水は5,000ppm~2,000ppm程度に調整し、水相の塩分濃度(30,000ppm)による掃攻試験と比較することで、低塩分濃度水が増油効果に及ぼす影響を確認した。掃攻試験では、塩分濃度の低下に伴う、コア上流圧力の上昇、油回収量の向上が確認され、要因としては、低塩分濃度水の圧入による岩石表面における微粒子の電気二重層拡大により、微粒子の脱離が促進され、さらに微粒子に付着した油が回収されたことが考えられる。また、追加実験として、模擬貯留層の水相の塩分濃度を100,000ppm~30,000ppmの範囲で検討した結果、圧入塩水の塩分濃度差が大きくなるほど、圧力と油回収率の増加傾向が観測された。岩石表面の濡れ性については、大気圧下かつ流体温度60°Cにおいて、岩石の飽和水の塩分濃度を30,000ppm~2,000ppm程度に調整し、油との接触角測定を実施したところ、塩分濃度の低下に伴い接触角が増加し、岩石表面の親水性が強まる傾向を示した。これは、油-水間にて界面張力低下に伴い、毛管圧とつり合う分離圧の増加によって岩石表面の濡れ性が変化したと考えられる。相対浸透率測定からは、圧入水の塩分濃度の低下に伴い、貯留岩表面における水濡れ性の増加傾向、及び残留油飽和率の低下が観測され、塩分濃度・濡れ性・油増進回収量の相関関係が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までと同様に砂岩及び炭酸塩岩コアを用いて、相対浸透率測定、濡れ性評価及び掃攻試験を実施し、低濃度塩水中の塩分濃度とイオン成分による油増進メカニズムについて検討する。模擬貯留層の塩分濃度は30,000ppm程度とし、油増進回収に有効と考えられる塩分濃度(5,000ppm以下)及びイオン成分(Ca2+)に絞り、掃攻試験を実施することでコア上流下流における圧力挙動、及び油回収量を検討する。特に、Ca2+の濃度による影響を砂岩と炭酸塩岩其々について検討する。炭酸塩岩を用いた場合は、粘土鉱物の含有量も評価し、掃攻試験時における油回収量や圧力挙動との相関について考察する。相対浸透率測定では、圧入塩水が有効浸透率や残留油飽和率に及ぼす影響を確認しながら、掃攻試験における増油効果及び流体挙動との関係について検討を進める。また濡れ性評価では、温度を掃攻試験及び相対浸透率測定に近い条件とし、模擬地層水で飽和させた砂岩と炭酸塩岩の表面において、油の接触角測定を実施する。前年度は、炭酸塩岩の掃攻試験結果にばらつきが観測されたので、炭酸塩岩を用いた試験を優先的に実施し、含有鉱物・濡れ性・塩分濃度・イオン成分の関係について検討する。砂岩貯留層を想定したコア試験も適宜実施し、適用可能な油層条件について検討する。
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