研究課題/領域番号 |
17K14992
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
河野 晋 金沢大学, がん進展制御研究所, 特任助教 (30625463)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | RB / PGAM / KDM5A |
研究実績の概要 |
がん抑制遺伝子RBは様々な因子と協調して細胞周期や細胞分化を制御している。特にヒストン脱メチル化酵素KDM5Aは、RBの主要な結合パートナーであり、RBによりその機能が抑制されている。これまでに、RB不活性化に伴うKDM5Aの活性化により終末分化が阻害されることや、胃がんにおいては、KDM5Aの発現異常が発がんや転移に関与していることが報告されている。そこで、RB-KDM5Aの異常が胃がんのコンテクストにおいて重要であると推測し、RB-KDM5Aがどのような遺伝子を制御しているのか探索を試みた。 ます、RB不活性化した胃がん細胞株では、ヒストン H3 タンパク質の N 末端から 4 番目のリジン残基(H3K4)のグローバルな脱メチル化が起きていた。そこで次に、RB不活性化細胞およびKDM5Aを阻害した胃がん細胞株における新生RNAをNET-CAGE法にて解析し、RBとKDM5Aにより制御される遺伝子を探索した。結果、RB-KDM5Aにより直接制御される遺伝子は91存在し、PGAM1を含む複数の解糖系の酵素がこの支配下にあった。また、TCGAデータセットにおいて、CIN型におけるPGAM1とRBの発現はその他のサブタイプとくらべて低く、KDM5AとPGAM1の発現には弱い逆相関が認められた。次に、グルコース代謝について詳細に解析を行ったところ、RB不活性化細胞では、解糖系がコントロール細胞と比較して低下していることが判明した。一般に、解糖系活性とミトコンドリアの代謝活性とトレードオフの関係にあることから、ミトコンドリア機能について酸素消費速度を指標に評価したが、RB不活性化によるミトコンドリア機能低下は認められなかった。以上の結果から、RB不活性化によりKDM5Aを介して直接的に解糖系の代謝リモデリングが行われていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本計画の研究目的は、「エピジェネティックリモデリングが、がん幹細胞性獲得に果たす役割」と、「リモデリングによる代謝変化」を明らかにすることである。本年度は、次世代シーケンサーを駆使した解析により、RB不活性化によりKDM5Aを介して解糖系酵素を制御することを明らかにした。このことから、本計画の目標「PGAM発現低下ヒト胃がん細胞における代謝動態の解析」の解析に関して十分に達成したと考える。また、細胞外フラックス解析および経時的培地成分分析により、PGAM1がRB不活性化による解糖系活性を調節の本態である知見も得ている。一方で、ヒストンアセチル化について、RB不活性化にともなうPGAM発現低下がそのリモデリングに寄与するなどのポジティブな結果は得られなかった。しかしながら、培地中のピルビン酸濃度を調節することで、PGAM1過剰発現と同様に胃癌細胞株のスフェア形成を抑制できることを見出していることから、本計画の「がん幹細胞性獲得におけるヒストンマークリモデリングの役割と標的遺伝子の解明」を一部達成したと考える。そのため、平成29年度の研究計画は、RB不活性化によって誘導される代謝動態の解析とその分子メカニズムの解明に関して、概ね順調に進展したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、RB-KDM5Aによって制御を受ける分子とRB不活性化にともなう代謝動態の変化について解明を進めた。その中で、解糖系最終産物ピルビン酸が、スフェア形成を抑制したことから、がん幹細胞様集団に関わる代謝の本態が、PGAMを介したヒストンアセチル化の変化に由来すると推測した。次年度は、視点を変えて細胞分化の観点から、3T3L1脂肪前駆細胞を用いて、未分化性維持とピルビン酸および細胞内代謝物濃度の関係について考察する。
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