研究課題/領域番号 |
17K15628
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
佐藤 文孝 近畿大学, 医学部, 助教 (30779327)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | バイオインフォマティクス / バイオマーカー / 多変量解析 / ビッグデータ |
研究実績の概要 |
多発性硬化症(MS)は病勢の違いにより進行型と再発寛解型に分けられ,再発寛解型の多くの症例はのちに進行型へと移行する。再発寛解型 MS の治療や病態の解明が進んでいる一方、進行型 MS の病態は不明な点が多く,治療薬の開発も遅れている。近年,MS 患者および動物モデルの遺伝子発現解析を網羅的に行う手段としてマイクロアレイや RNA シーケンシングが頻用されている。しかしながら,得られたビッグデータ・多変量の解析手法としては目的変数あり(教師あり)の群間比較に留まっていることが多い。そこで本研究では,我々がこれまでに確立した二つの進行型 MS 動物モデルを使用し,目的変数なし(教師なし)の多変量解析手法の一つである主成分分析(PCA)を中心に用い,病態を解明する。平成 29 年度においては,二つの進行型 MS マウスモデルより,MS 病勢の進行は病変部位である中枢神経(CNS)において個々の患者により異なる免疫因子に依存しており,その事が進行型 MS に対する有効な治療薬の欠如に繋がっていることを示唆してきた。そこで平成 30 年度においては,末梢免疫組織の役割を検討するため二つの進行型 MS 動物モデルの末梢リンパ組織である脾臓の網羅的遺伝子発現の解析を行い,そのデータを PCA にて多変量解析することで進行型 MS 動物モデルに共通する末梢バイオマーカーの同定を試みた。その結果,脾臓サンプルにおいてこれまでに報告したカテプシン阻害物質として働く Stfa2l1,トリプシン遺伝子 Try5 と Try10 などの遺伝子発現の増加に加えて,Gypa,Kel,Rhd,Cldn13 などの赤血球関連遺伝子の減少が両モデルの病態に共通して関わる因子であることを見出した。つまり,これらの遺伝子発現の増減が進行型 MS に共通する末梢バイオマーカーとなる可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二つの病態の異なる進行型 MS 動物モデルを比較検討した研究は本研究が世界で初めてであり,またヒト進行型 MS のバイオマーカーとなる可能性がある候補因子の探索を行った研究も極めて少ない。平成 30 年度には病態の異なる二つの進行型 MS 動物モデルにおいていくつかの遺伝子発現が末梢において共通して増減することを見出し,それらの遺伝子発現が進行型 MS の末梢バイオマーカーとなり得ることを示唆した。また CNS サンプルと脾臓サンプルのパターンマッチング解析を行った結果,カテプシン阻害物質として働く Stfa2l1は正に、赤血球関連遺伝子の Kel は負に強く相関することも見出した。本研究成果は平成 30 年度に論文として発表されたことから,研究達成度としてはおおむね順調と評価している。
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今後の研究の推進方策 |
平成 30 年度までに行ってきた実験を継続するとともに,これまでに得られた結果の補強を行う。特に,進行型 MS 末梢バイオマーカー候補の強化を行うために,異なる病期における CNS および血液サンプルを採取するとともに,異なるバイオインフォマティクス的手法も用いて CNS ならびに末梢バイオマーカーの同定を試みる。また平成 30 年度には、本研究にて用いた二つの進行型 MS 動物モデル以外にももう一つ進行型 MS 動物モデルの作製に成功したので、新たな進行型 MS 動物もでるから得られたデータをこれまでの成果と比較することにより、病態の違いを反映する遺伝子を明らかにする。さらに,投稿中の論文も完了する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)類似研究からの支出により本研究の出費削減ができたことに加え、マウスの繁殖維持が安定していたたことにより、当初に要すると考えていた RNA シークエンシング試薬およびマウス購入費用のほとんどが研究用消耗品費にあてられたことが次年度使用額が生じた大きな要因である。 (使用計画)平成 31 年度以降の研究経費の多くは RNA シークエンシング試薬および解析用消耗品費にあてられる予定である。また、新たな進行型 MS モデルの作製が確立されたことから、そのモデルの解析を免疫学的・病理学的に行う予定であるため、そちらにも相当額を要すると推測される。
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